第2話 洞窟の前にて

 岩の階段を登り切ると目の前にドワーフ王国があったとされる洞窟が少し先に見えた。登り切って少し歩いたところで、やっと着いたと思った瞬間、自然と足が止まった。洞窟兼門に変化なし。あとは仕掛けがしっかり動作したら良いけど…ここまで朝から出発し、昼になる前に、特に問題もなく目的地に着いてしまった。

 朝から快晴で、今も快晴。むしろ、少し暑いくらいになっていた。洞窟前を兎が二匹通り過ぎた。二匹で遊んでいるらしく飛び跳ねたり走ったりして楽しそうにしていた。

 目の前の洞窟、もしくは門を見て、山を見上げながら、少しため息をつく。

「疲れた?」

冒険者が話しかけてきた。

 歩いて疲れたんじゃなくて、人生を考えてて疲れた――なんて言えるはずもなく。

黙って、ドワーフの王国があったという証拠の、古くて苔の生えた門の前へ歩いていった。

早く行って、終わらせて帰ろう。ドワーフの王国の宝なんて、ない。……多分。

私に続いて、貴族の三男坊っぽいソロ冒険者が、置いていかれないように少し小走りでついてくる。足音からして冒険者も元気そうだった。

 門の近くにレバーがあった。せーので、体重をかけて一息に引く。これを引くと、いつも親方の手を思い出す。武骨で硬くて、職人の手。多分、このレバーも硬いからそう思うんだろうな。少し時間をおいて歯車がまわる音がしだした。良かった。かなり時間が空いたから動くか心配だったけど、無事に動いてくれてる。少し安堵のため息をつく。でも次は、どこか不具合がないか調べておかないといけないかも。動くまでに時間かかったし。そんな事を考えていたら、洞窟入口の上の方に穴が開き、空気を取り込む音がしてきた。

「え、なにこれ?」

「洞窟内に空気を送ってる」

こんなことも知らないのか――という風に言ったが、普通は知らないことに気づく。

「洞窟内って、空気がないかもしれないから。もしかしたら死ぬ可能性もあるから、こうやって空気を送り込むの」

「そうなんだ……よく知ってるね」

「誰だって知ってるよ」

……誰だって、は言いすぎだったかも。

何で知らないんだよっという思いもあり、ついそんなことを言ってしまった。

 あっと思い、怒っているかどうかチラッと横にいる冒険者を窺うように見たら、そんなこと気にすることなく、洞窟の上を感心したように見ていた。

横顔を見ると、貴族というより子供っぽいよなーと思っていたら、洞窟の入り口から少し風が出てきた。

 ふいに顔をこちらに向けてきた。

「これもドワーフの王国の技術?」

興味津々です、自分。って感じで聞いてきた。

私を見る目は輝いていて、楽しそうだった。

「これは後付け。今の技術。私と親方でつけた。」

 私と親方が頑張った証。

親方があまりにもドワーフの宝を探しにくる人達が多かったから中に入った人が窒息しない様に、また将来、観光地になるかもしれないから、その準備で作り上げた。少しこれを作った時の事を思い出す。

 一緒に作業したから分かるけど、これつけるの大変だったんだから、材料を運ぶのも、山の上に穴を開けるのも、設置するのも、どれくらい時間がかかったのかも分からない。でも時間をかけた分、良い仕事できた。だからもっと関心を持ってくれてもいいのに。

……とも思ったけど、今はそれよりもドワーフの王国の宝だ。今回で見つかるといいけど。

「へえーすごいな、親方と君って。あ、この門のところ、古代語が書かれてる」

 これ古代語だったんだ。へえーと思って横にいるリコを見ると手帳みたいなのを出して書いてた。

 書き終わったら行くかと思い、少し背筋を伸ばし、足を伸ばす。体は大丈夫。チラッと冒険者に目線をやると手帳をパタンと閉じるところだった。

 よし、そろそろかな。

「入るよ。ところで、どこら辺を探すのか見当はついてるの?」

「あ、うん。入口入って、最初の分かれ道を右に。まっすぐ突き当たりまで」

迷わずに道のりを言った冒険者。

もしかして、それもどこかの文献からなのか。やけに詳しいなと思って、聞いてみた。

「どこからその情報を得たの?」

「秘密」

……ちょっと生意気だ、こいつ。ほんとに置いていこうかな。

「あ、ちょっと待って。早いって」

 少し足早に行く。後ろから追っていくソロ冒険者の声が聞こえた。


 洞窟の外にある森は静かで、穏やかな風が流れている。

 時刻は、もう少しで昼時。鳥も獣も、穏やかに過ごしている時間帯だった。

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