ドワーフの娘 焔の旅鍛冶-旅立ちとドワーフの宝
@youtarou323
第1話 ある日の冒険
あんな山、何もないのに。
―そういわれて何十年たっただろうか。もしかしたら何百年かもしれない。でも今でも訪れる人は断たない。
そう周りが言っても、私が思っても足は目的の山へ向かって、蛇のように曲がる坂道を、私は黙々と登っている。
一族特有の大きな耳に少し暖かい風が後ろから受けながら、私は少し上にある空を見て歩いていた。
黒い髪の毛に覆われた頭頂部の大きな耳にまた風が吹いた。髪が乱れるから、あまりここの山の風は好きじゃない。
歩きながら、片方の手で左の腰に差している短刀の柄にふれ、撫でるように手をすべらせて軽くため息をついた。
私はもっと本格的な冒険がしたいのに。前回も前々回も単なる案内で終わった。今回もそうなる、そんな気がする。
本当にあるのかな、そのドワーフの宝って。期待と失望が混ざったため息を軽くついてゆっくり流れる雲を眺めた。
話の発端は朝、鍛冶屋の手伝いをしていた時のことだった。
私はドワーフの親方の下で鍛冶屋の見習いをしつつ一緒に暮らしている。
今日の朝も、いつも通りの一日になる予定だった。
その日の朝は良く晴れていて、小鳥たちが晴れたことを祝うように鳴いていた。
清々しい朝から店前の掃除、道具の準備、次に工房の掃除、見習い仕事としていろいろとしていたら・・・
ソロで活躍している冒険者様がいらっしゃった。
一目見た時、本当に冒険者かと思った。
線も細く、どこか品もよくて、赤茶の髪の毛をした貴族の三男坊って感じするなーというのが第一印象だった。苦労も悲しいことも無縁、そんな感じ。でも何だろう、どこか、物語に出てくる主人公っぽい風貌だなって考えた。目が澄んでいるっていうか、純粋無垢ってこういう人をいうのかなって思う。今どき珍しい感じの人。
その貴族の三男坊がドワーフの親方の前で遠慮がちに多くの人がしてきた依頼をお願いした。
「あのーすいません。実はフォス鉱山に行きたくて・・・」
ああ、またかとその時、そう思った。ドワーフの親方もそう思ってるなと顔を見たら分かった。
少し髭を生やして髪の毛がボサボサのドワーフの親方は腕組みしながらため息を吐いていて、重たい口を開いた。
「おまえさんで、今年に入って5人目だ。何度もあの山に行ったが何にもなかった。金を無駄にするだけだ」
え、そうなんですかっていう顔をしたソロ冒険者。その顔が面白くて少し笑いそうになった。ちなみに似たような顔を見るのは、今年で三人目。
「あのな。あそこにドワーフの宝である刀剣がどこかにある、もしくは埋まっているなんて、昔から言われとるし見つかった試しがない」
ほら町に帰ったと言わんばかりに手を振って親方は突き返そうとした。
「でも・・・新しい文献が発見されたんです・・・いや発見したのは僕なんですが・・・」
恐る恐るといった体で話す冒険者。ああ、またそれか。まだ、そんな詐欺みたいなのあったんだ。
鍛冶仕事の準備しながら以前に似たような詐欺にあってこの鍛冶屋に来た人を思い出した。
「どうせ、『あの洞窟に宝、眠る』とかなんとかじゃろ?」
「いえ・・・『山の壁にドワーフの槌を振るえ。さすれば与えん試練。試練乗り越え宝を手に入れてみせよ』でした」
ドワーフの親方がほぅと言い、感心したように冒険者を見る。足元から顔までじっくり時間をかけて値踏みするようにみていた。
あ、これ行かせてみるか、とか考えてそう。礼儀正しく好青年で、将来有望そうな若者が好きだから親方。そう思っていたら声をかけられた。
「おーい!お前、ちょっと案内してやれ」
ほら、やっぱり声がかかった。そんな気はしていたけど。
「えー・・・帰ってくるの夕方になるじゃん・・・まぁ、いいけど」
私は出来るだけ、いやいやだけどしょうがないから行ってあげるといった感じでいったけど。
親方には嬉々として行こうとしていることは、きっとバレている。
だって私が世界中を旅して多くの遺跡や、動植物、国を見たいって知ってるから。
それは私が小さいころ、ドワーフの親方とご飯を食べていた時に口を滑らせて言ってしまった私の夢。
「じゃあ準備させるから、ちょいと待て。あ、依頼料は10ゴールドになるが良いな?」
私の返事を聞いて、嬉しそうに笑った顔を私に向けた。そのまま親方は冒険者に金額の相談をしだした。
「あの・・・親方が行くんじゃなく?彼女が、ですか?」
「あー大丈夫だ。ああ見えても一人前だ。短剣使いとしては相当の腕前だぞ」
そうなんですか、とか何とか言って、その話は終わった。
それよりも、準備、準備。
いつもそうなんだよなーと思いながらフォス鉱山に行く行程を思い浮かべながら必要なものを、少し大きめのバックにどんどん入れていく。
これもあれもといった風に他の人たちからは適当に入れているように見えるだろうその作業は
今年に入って3回目。手慣れたもんだ。
そうして、私と冒険者のフォス鉱山への冒険は始まって、今に至ると。ほんの少し前の話なんだけど。
でもこうやって短い冒険をするのも好きだけど、いつか首都に行って、ダンジョンに潜って珍しい素材を集めてみたいし、見てみたい。
どうせなら、それで自分用の武器を作ってみたい。どんな武器が出来上がるのか、どんな武器にしようかとか、防具でも良いかもとか考えるとワクワクしてくる。
幼いころ、親方が寝物語として語ってくれたドラゴンや、大きすぎて見上げても上が見えない滝、空に浮かぶ島、地下にある神殿――その神殿に掘られている精巧な女神像。
一度でもいいから、観てみたい。かつて親方が見たものを、私も観てみたい。
でも、私が冒険者になると言って出ていったら、親方が一人になってしまう。
生まれて今まで育ててくれたのに、それってひどい仕打ちのような気がして……親方には言えない。
ああ、私はどうしたらいいんだろう。と心の中で大袈裟に舞台女優さんのように嘆きながら考えてみる。
もし、親方とずっと鍛冶屋を営んだ場合は…
不幸な要素はあまりなかった。町まで歩いて一時間くらいかかって、買い物には不便だけど、毎日誰かしら来て、飽きるようなことはない。
そして、私が旅に出た場合は……親方、ちゃんと毎日食べてくれるかな?……餓死しないかな?
そんなことを考えていたら、目の前を歩いていた貴族の三男坊が、こっちを見て声をかけてきた。
「あのさ……ちょっと聞いてもいいかな?」
今、真剣に悩んでるから。話しかけてこないで――とも言えず。
「ん……何?」
すっごくぶっきらぼうに答えてしまった。何なら今年一番の不機嫌さだったかもしれない。
「いや、立ち入ったことを聞くようで悪いんだけど……君たちは親子なの?」
なんだ、そんなことか。よくある話で、別に特別なことでもないのに。
「あー……私は養子なんだ。親方の」
「あーそうなんだ」という顔をした。多分、次は…
聞いてごめんなさい、でも僕は君の味方ですからね――
っていう顔をするんだ、みんな。お決まりの手順。何度もそういう顔をされた。
「それは……なんていうか……」
ほら来た。こいつも皆と同じかなーと思っていたら、次の言葉に少し興味を持った。
「親方との生活、楽しそうだね」
歩きながら、こっちを見て笑った顔が、どこか幼いながらも楽しそうだった。
そんな二人が歩いている道は、少し整備されているとはいえ、森の中だった。
獣の声が時折聞こえ、鳥が羽ばたく音もよく響いてくる。
その道の先には、かつて鉱脈が広がり、ドワーフ族の王国が栄えていた場所がある。
希少な金属が、気象と呼べないほど採取できたという。
歴史の教科書に、ほんの一行だけ載っているその山の名前は――フォス山。
フォスは、昔の言葉で「光」という意味。
鉱脈があり、山から今二人が通っているこの道を使って貴金属を運んでいた頃、
道が光っているように見えたことから、そう呼ばれるようになったのだ。
今では、その光を見る者はいない。
かつて王国だったものは朽ちて、土に還った。
後に残っているのは、王国の入り口と言われている洞窟…かつての王国の山の門だけ。
正面を歩いている冒険者が再び前を向いて、会話が終わった。
彼の赤茶の後頭部を見て、そこから目線を上げて、再び空を見た。
真っ白い雲はゆっくりと、だけど私たちより早く空をかけていた。
本当に、ないのかな。ドワーフの王国の宝。
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