偽書奇妙生物辞典

みはら

まえがき

偽書奇妙生物辞典

まえがき


存在を証明できないものについて語ること──それは、学問の場では慎まれるべき態度とされている。

「ないこと」を証明するのは難しく、だからといって「あるかもしれない」と言い出せば、途端に“オカルト”の範疇へ押し込められる。


本書は、かつて異端視された研究者であり編者の恩師でもあるS澤M夫博士(故人)の遺稿をもとに編まれたものである。

博士は、実在の証拠が乏しい“奇妙生物”について、数十年にわたり資料を蒐集し、独自に分類・記録していた。

その調査範囲は、国内の伝承にとどまらず、欧州の幻獣文献、南米のシャーマン口承、さらには冷戦期の極秘公文書にまで及んだ。


本書に収録された項目は、その中でも比較的信憑性が高いと判断されたもの──あるいは、信憑性の有無を超えて“記述として強度を持つもの”である。

資料の一部は既に散逸しており、抜け落ちた語句や日付もある。文体もまちまちであるが、そうした綻びこそが、この書の“正しさ”を裏打ちしていると信じたい。


信じるか否かは、読者に委ねたい。

本書は、誰に向けて書かれたものでもない。

ただ、「語られずに消えていくもの」を、少しでも留めようとする試みである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る