マイナスイオン溢れる旅館

五來 小真

マイナスイオン溢れる旅館

「時代はマイナスイオンです」

 旅館のおかみが、妙なことを言い出した。

 既に何周も遅れた発想だった。

 しかし、おかみの言葉は強かった。

 改革は断行されたのである。


 旅館内には植物が飾られ、滝すらある。

 マイナスイオンは、確かにあるだろう。

 物珍しさから、客数が爆発的に増えた。

 天下を取る勢いだった。


 しかし、ある時を境に客足が途絶えた。

 従業員もそれに合わせて、辞めていった。


 『キャンパー激増』

 そんな新聞の記事を読んで、苦々しく思った。


 ——普通に泊まれよ。


 とにもかくにも、運営に従業員が足りない。

 新規に雇うことにした。


 無事、新しい従業員が1人入った。

 新たに雇った従業員は、旅館の中を見るなり言った。


 「——これ、野宿と変わらなくないですか?」


 植物を直接生やして、鬱蒼と生えた樹木。

 動物もいるし、虫もいた。

 違いがあるとしたら、屋根があることだけだろう。

 この状況では、キャンプするほうが圧倒的に経済的だ。


 ——なるほど、それでキャンパーが……。


 いつしか旅館は、キャンパー養成所になっていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マイナスイオン溢れる旅館 五來 小真 @doug-bobson

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ