流星ラノン

この世界では、戦争はフェスティバルである。


号砲は花火、進軍はパレード、作戦会議は屋台の裏、捕虜交換はじゃんけん大会。

国境線には提灯が連なり、戦車にはデコレーション用のリボンが標準装備されていた。


誰もが知っている。

この世界の戦争は「盛り上がったら勝ち」なのだ。


そんな世界に、■■■はいた。


彼はどこの国にも属していなかった。

正確に言えば、属していたことはある。全てに。


帝国の将軍だったこともある。

共和国の英雄だったこともある。

王国の王子だったことも、革命軍の象徴だったこともある。


そして、その全部を裏切ってきた。


「裏切りっていうかさ」


■■■は、戦場のど真ん中、巨大ステージの上でマイクを握りながら言った。


「ノリ?」


歓声。

背後では、帝国軍と共和国軍と王国軍と革命軍が、合同で盆踊りをしている。

今は停戦時間だ。理由は「夕焼けが綺麗だから」。


■■■は空を見上げる。


そこに、流星が落ちた。


――流星ラノン。


この世界で最も有名な現象であり、最も厄介な厄災であり、

そして最終的には「毎回どうにかなるやつ」でもあった。


流星ラノンが落ちると、世界は必ずめっちゃくちゃになる。


国境は溶け、条約は増え、設定は後付けされ、

ラスボスが生え、勇者が量産され、世界が終わりそうになる。


だが終わらない。


なぜなら、■■■がいるからだ。


「さて」


■■■はマイクを切り、ステージから飛び降りた。


地面をすり抜ける。

着地した先は、四大国家首脳が集まる円卓だった。


「今回の流星、どこまで行くと思う?」


「最終章ですかね?」と帝国皇帝。

「いや中盤山場」共和国議長。

「外伝に回すのもアリでは?」王国女王。

「全部嘘ってオチで」革命軍代表。


■■■は全員を裏切ることにした。


「全部違う」


全員が身構える。


「今回は――ラスボスが先に出てくる」


沈黙。


「……それ、君じゃないのか?」と誰かが言った。


■■■はにっこり笑った。


「そうだけど?」


その瞬間、世界にアナウンスが流れた。


《最終災厄・流星ラノン:発動準備完了》


空が七色に割れ、巨大な演出用ホログラムが展開される。

BGMは無駄に壮大。観客席は満員。屋台は完売。


「ラスボス討伐フェス、始めようか」


勇者たちが集まる。

元部下、元親友、元敵、元婚約者、元犬


全員、■■■に裏切られている。


どうしてこんなことをありがとう!」

信用してたのに知ってた!」

最低最高!」

でも嫌いじゃない愛してる!」


■■■は肩をすくめる。


「だってさ」


彼は空を指差す。


「誰も死なない世界で、

 世界を救う方法って、

 全部を裏切ることしかなくない?」


戦いが始まる。


剣は当たらない。

魔法は花火になる。

必殺技は転ぶ。


ラスボス戦なのに、誰も傷つかない。


流星ラノンが降りてくる。

その衝撃で、世界の「問題」が全部可視化される。


国家間の軋轢。

個人のトラウマ。

設定の矛盾。

説明不足の伏線。


めっちゃでっかい問題の塊。


「無理だろ……」と誰かが言う。


■■■は走った。


理由はない。

勢いだけだ。


「よし!」


叫んで、問題に突っ込んだ。


結果、どうなったか。


――なぜか全部、繋がった。


矛盾は「そういう世界だから」で解決し、

確執は「まあフェスだし」で流され、

伏線は「後で考えよう」で回収扱いになった。


流星ラノンは、空で方向を変え、

巨大なハート型になって消えた。


世界は救われた。


拍手喝采。

アンコール。

ラスボス再登場。


「ありがとう、ラスボス!」

「最高だった!」

「また裏切って!」


■■■は手を振る。


「じゃ、次は何を裏切ろうか」


誰も怒らない。

誰も死なない。

世界は今日もフェスティバルだ。


そして噂が流れる。


――流星ラノンの正体は、

 世界が「真面目になりすぎた」ときに、

 ■■■が蹴りを入れるための装置らしい。


本人は否定している。


「そんな大層なもんじゃないよ」


ただし、こうも言う。


「勢いでどうにかなるなら、

 それが一番、楽しいだろ?」


ラスボスは今日も、

誰かを、何かを、全部を裏切りながら、

世界を終わらせずに、続けている。


――流星ラノンは、またいつか落ちる。


その時もきっと、

誰も死なない。


そして、

■■■は、ラスボスでいる。

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