それは偽物だった

檸衣瑠

ほんもの

なんとなく、多分、ずっと、なんとなく思っていた。

いや、気づいていたと言う方が正確なのかも知れない。

それは直感と言うべきなのか、はたまた経験と言うべきなのか、或いは両方なのか。

それは自分でも分からない。

なんとなくとはこういうことなんだろう。


いや違う。

ぼんやり思っているだけのふりを、気づかないふりをしていただけだ。

「なんとなく」なんて曖昧な言葉で誤魔化しただけの偽物。

本当はずっと分かっていたんだろ?

まだ小さいとき、あれ?って思った小さな違和感。

あのときからずっと感じていたハマらないパズルのピースを、無理矢理埋め込んで、ハマったふりをして、「気のせい」だと、「なんとなく」だと、はっきりしない言葉で逃げただけ。

確信めいたこともたくさんあった。明らかな違和感もたくさんあった。

その度パズルを埋め込んで誤魔化した。


気づいたら、壊れてしまう。

壊れなくても変わってしまう。


それが嫌だから。


特に幸せなわけでもない。しんどいことも悲しいことも辛いこともたくさんあった。

でも、だからといって変わりたいわけじゃない。

いい方向に、幸せになれるかもしれない。そんなこと分かってる。

だから余計に、わるい方向に、もっと苦しくなるかもしれない。そう頭をよぎって離れない。

その可能性は極めて低いかもしれない。いや多分、極めて低いだろう。

そんなこと分かってる。

分かってるからこそ気づかないふりをしていた。


そうだよ、もう分かってる。ほんとはただ怖いだけだってことくらい。

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