第13話 血の贖罪

あの人がいなければ、俺はもうとっくに終わってた。


守られた命。託された想い。

逃げてるだけじゃ、終わらないってわかってた。

でも、本当に終わらせるって……こういうことだったんだな。


怒りで足が動く。悲しみで拳が震える。

だけど、もう迷わない。


“守ってくれた背中”に、今度は俺が応える番だ。



「はぁ、はぁ……ッ!」


非常階段を駆け下りる結志(ゆうし)の呼吸が、焼けつくように荒い。

恐怖でも、絶望でもない。

ただ、“怒り”が胸を燃やしていた。


──金田の姿を振り返る余裕なんて、なかった。

ただ、信じて走った。

あの漢が、今まさに命を張って時間を稼いでくれている。

その背を、疑う理由なんてどこにもなかった。


「おらぁああああッッ!!」


怒号がビルの内部に木霊する。

十数人の反社が階段を埋め尽くす。

だが、金田はひるまない。


拳ひとつ。怒声ひとつで、敵を薙ぎ倒していく。

何発殴られようが、蹴られようが、

地面に這いつくばっても、立ち上がった。


──だが。


パンッ。


乾いた音が、空気を裂いた。


「ぐ……ふっ……!」


金田の腹に、赤黒い染みがにじむ。

それでもなお、彼は立ち上がる。


「守るって決めたもんを、守らねぇ漢の方が……よっぽど仕事じゃねぇんだよ……!」


膝が崩れても、拳は振り上げられていた──

その瞬間。

二発目の銃声が、心臓を撃ち抜いた。


「……チクショウが……」


金田は崩れるように倒れた。

命の灯火が、煙のように静かに、消えた。


***


結志は、息を切らせながら走り続けていた。


《逃げ続けても、終わらない……なら──終わらせるしかない》


向かう先は、ふろうどの屋敷。

これは復讐じゃない。贖罪だ。


金田が背負った闇を、自分が断ち切る。

その覚悟とともに、託された拳銃をポケットに押し込んだ。


やがて辿り着いた、ふろうどの屋敷。

不気味なほど静かな空間に、自分の心拍だけが響いていた。


扉を開けた瞬間──そこにいたのは。


「やあ、来てくれたか。

 ようこそ、君の“最後の一ページ”へ」


「ふろうどぉぉぉッ!!」


怒りの咆哮が、空気を裂いた。

今──すべてが終わる。

すべてを始めるために。



次回予告(リライト版)



第14話『風楼堂(ふろうど)』


決着のとき。

ぶつかり合うのは、拳じゃなく魂だ。


悪意。記憶。過去と現在。

そのすべてが交錯する中で問われるのは──


「赦す」とは何か。

「抗う」とは、何のためか。


命を懸けた問いが、今、放たれる。




ここまで読んでくれて、ありがとうございます。


金田という漢の生き様、

心臓を撃ち抜かれてもなお立ち上がる姿に、

胸が熱くなった人も多いんじゃないかと思う。


結志が今、立ち向かおうとしているのは

“過去”そのもの。

ただの悪党じゃない。

彼の中にある「赦せなさ」と「赦したさ」がぶつかり合う場所。


次回、第14話『風楼堂(ふろうど)』では

あらゆる決着が、静かに──そして激しく、始まる。


感情の終着点を、見届けてほしいです。

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