第2話 残りの7ページ

忘れることが怖い。

それでも、何かが残ると信じたくて。


記憶の抜けた未来の自分へ。


第2話では、“1ページ目”に込めた願いと、両親との再会が描かれます。

一言では言い表せない想いが、じわりと滲むシーンです。


残り7ページのノート。


その1枚目を、誰かに託す前に──

俺は、“未来の自分”に向けて書くことにした。


記憶を失った俺へ。


今の俺は、怖い。

忘れることが、こんなにも怖いなんて思わなかった。


不安だ。悲しい。

少しだけ、諦めも感じてる。


だけど、こうして書こうとしてるのは──

たしかな“感情”が、まだここにあるからだ。


記憶がなくなっても、感情は残った。


昨日、何があったかは思い出せなくても、

そのとき何を感じたかだけは、胸の奥に焼きついている。


だから未来の俺へ。


もし全部を忘れても、

感情だけは、君を裏切らない。


名前が思い出せなくても、

誰とどんな関係だったか消えてしまっても、

心はちゃんと残っている。


君は、君のままでいい。


忘れてしまった俺に──

この気持ちだけは届け。


──過去のユウシより。


そうして俺は、少しだけ安心して、静かに目を閉じた。



翌朝。


病室のドアが、そっと開いた。

男女のふたりが入ってくる。


「……ユウシ」

そう呼びかけたその人たちは、俺の“両親”らしい。


看護師さんも「ご両親です」と頷いた。

たしかにそうなのかもしれない。


でも、なんだろう。

ふたりの笑顔が、やけにぎこちなく見えた。


まるで、無理やり笑ってるみたいな顔だった。


──そりゃ、無理もないか。


たったひとりの息子が、記憶を失った。

笑えるはずなんかない。


俺はふたりに、何を残してこれたんだろう。


沈黙の中で、言葉を探す。

ぎこちなく口を開いた。


「ねえ……お父さん、お母さん。

俺に、忘れてほしくないこと──

このノートに書いてくれない?」


2ページ目を、そっと差し出した。


「最初のページは俺が書いたみたい。

でも、何を書いたのか……俺にはもう、わからないんだ」


ふたりは黙ってノートを受け取った。


そして──

その場に立ったまま、静かに泣き始めた。


何の涙なのかは、俺にはわからない。


嬉しさか、悲しさか。

それとも、どうしようもない苦しみか。


きっとそれは、親にしか流せない涙なんだ。



次回予告


第3話:両親の想い


2ページ目に書かれていたのは、

涙でにじんだ、ふたりの言葉だった。


読んでいるうちに、なぜか涙がこぼれた。


希望だったのか、愛だったのか。


わからないけれど──たしかに、温かかった。

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