第16話 夜の学校
夏休みまで、あと一週間になった。だんだんぼくは、荷物を持ち帰るようになった。泰我先生に言われたからだ。
……。
昨日は日曜日だったから、もしかしてと思って公園に行ってみたけれど、水間さんは来なかった。泰我先生は、何か聞いただろうか? 見ているといつもの通り明るくて、ぼくには判断できない。
「はぁ……」
思わずため息をつくと、人潟くんがぼくを見た。
「どうかしたの?」
あいかわらず、少しだけ首をかたむけてぼくを見ている。
「ううん。今日もたくさん持って帰らなきゃと思って。人潟くんは、もう色々持って帰った?」
「ぼくは持って帰らないんだ」
「ああ、最後の日にお母さんかお父さんが車で来てくれるんだね」
ぼくは一人なっとくした。人潟くんは、ニコニコ笑っている。
「楠谷くんは、夏休みはどこに行くの?」
「テーマパークだよ! 亮にいちゃんが、のり気でさ。家族サービスだよ」
「そうなんだ」
そんな話をしていると、泰我先生が入ってきたので、帰りの会が始まった。
ぼくは話を聞きながら、たまにチラリと哀名の背中を見た。哀名とも、図書室以来、話していない。それも少しさびしい。
なんだか最近、すっきりしない。
そう考えながら家に帰ると、スマホではなく家の電話に耳をあて、亮にいちゃんが苦しそうな顔をしていた。なにか、とってもなやんでいる顔だ。
「――分かりました。うかがいます」
亮にいちゃんが電話を切ったとき、ぼくはリビングに入った。
すると亮にいちゃんが振り返った。
「瑛。今日父さんは準夜勤なんだけど、俺は少し出かけてくる。なべに肉じゃがが入っているから、一人でレンジで温めて食べられるか?」
「うん」
「一人でお留守番できるか?」
「ぼく、もう小学六年生だよ? 大丈夫だよ」
「そうだな。じゃあ、少し出かけてくる」
そう言うと亮にいちゃんが、制服のままで出かけていた。
なんだろうかと考えながら、ぼくはお鍋のふたを開ける。そうしながら、ふと考えた。今日は、亮にいちゃんもお父さんもいない。だとすると、夜に学校にぼくがいってもバレない。
人体模型のウワサを思い出す。
夜の七時から、人体模型は校舎を走るらしい。今日なら、人体模型に話が聞けるかもしれない。ぼくは一人決意した。やっぱり、水間さんを手伝いたい!
こうしてぼくは急いで肉じゃがを食べ、七時にそなえた。
ドキドキしながら、ぼくは生徒玄関ではなく職員玄関へと向かった。
そして音を立てないように注意しながら中に入る。
職員室のほうを見ると、灯りがもれていた。先生達に気づかれる前にと、急いで二階にあがる。理科室は二階にある。人体模型は、ぼくは見たことがないけど、水間さんが理科室と口にしていたのをおぼえている。そちらに向かって歩いて行くと、階段をおりてくる足音が聞こえた。
人体模型だろうか?
かたずを飲んで見守ると、ひょいと哀名が顔を出した。おどろいてぼくは目を丸くする。
「やっぱり」
「哀名、どうしてここに?」
「カードが教えてくれたの。今日、楠谷くんが学校にしのび込むって」
「すごい……」
哀名の占いは本当に当たる。
だが、今日は当たってほしくなかった。だって哀名は邪魔になると話していた。
「私も行く。できることをしたいから」
「!」
続いて聞こえた言葉に、ぼくはゆっくりと二回まばたきをしてから笑顔になった。
哀名はやっぱり優しい。
「行こう」
「ええ。三階のほうで、走る足音が聞こえたの」
「ぼく達の教室のほう?」
「そうなの」
「わかった」
こうしてぼく達は、暗い階段を、二人でしんちょうにのぼった。
そして三階につくと、ちょうどぼく達の教室のとびらがガラガラと開いたところで、そこから勢いよく人かげが飛び出してきた。
きょりがあるから顔は暗いし見えないけど、こちらへ向かって全力疾走してくる。
きっと、人体模型だ。ぼくは思わず、となりにいた哀名の手を、ギュッと握った。
ぼくが怖かったからじゃない。哀名を守ろうと思ったからだ。
「ふぅ。夜の学校は最高だなぁ! やっぱり廊下を走るのは気持ちいいね!」
明るい声がした。聞きおぼえのある声だった。
もしかしてクラスのだれかが残っていたのだろうかと考えたとき、ぼく達の正面で、走ってきた人が急ていしした。そのすがたを見て、ぼくはビックリした。
顔の右半分が、模型になっている。右手と左手を走るかたちに折り曲げたままで、ぼく達を見て、人体模型が目玉がこぼれ落ちそうなくらいまぶたをあけた。
「く、楠谷くん……哀名さん……」
名前を呼ばれ、ぼくは服をきていない人体模型を改めて見て、思わず言った。
「人潟くん……?」
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