第13話 読んではいけない本


 台風がすぎ、水間さんが図書師に行くと話していた土曜日になった。

 ぼくは、午後の二時につくように、図書室へと向かう。

 すると待ち合わせをしていたわけではないが、生徒玄関で哀名と会った。水間さんが『十四時』と話していたから、哀名もこの時間に来たのだろう。


 二人で図書室へ行くと、水間さんがすでに来ていた。


「水間さん、本はあった?」

「来たのか。いいや、見つからない」

「私も探します」

「……助かる。一人では骨が折れる」


 こうしてぼく達は、手分けをして、『読んではいけない本』を探すことにした。


「どんなタイトルなの?」

「俺が聞いたことがある話としては、『読んではいけない本』というタイトルで、作者名などは書かれていないらしい。それを読み進めていくと、ミイラ男が現れて、命を奪われるそうだ。見つけたら危険だから俺が読む」

「でも、ミイラ男が大人だったら、大人が取り押さえた方がいいんじゃないかな?」

「私もそう思う」


 哀名が同意してくれたとき、ぼくははたと思い当たった。哀名に読ませたらかわいそうだ。だけど、自分で読むのもこわい。


 ……。


 でも、きっと水間さんはミイラ男を倒してくれるし、哀名だって護符を持っている。ぼくは自分にそう言い聞かせた。


「ぼくが読むよ!」

「だが……」

「それに水間さんが死んじゃったら、ミイラ男に話が聞けないよ?」

「……でもな、情報と瑛の命を天秤にはかけられない」

「だったら全力でミイラ男を取り押さえてよ!」


 ぼくの言葉に、むずかしい顔をしてから、水間さんがうなずいた。


「あった、あったわ!」


 そのとき、哀名がいつもより大きな声をあげた。ぼくと水間さんがそろってそちらを見ると、哀名が一冊の本を手に持っていた。赤いカバーの本で、布の表紙みたいだ。金色の文字で、『読んではいけない本』と書いてある。哀名が差し出したので、ぼくは本を受け取る。そして近くの椅子に座った。ぼくの左右に、水間さんと哀名が立つ。


「読むよ」


 ぼくの言葉に、二人がうなずいた。


 ぼくは深呼吸をした。深く息を吸ってはいた。

 それからつばを飲み込んで、大きな本の表紙をひらく。


『読むな、すぐに閉じよ』


 1ページ目には、そう書かれていた。

 ドキリとしたけれど、ぼくは2ページ目を開く。


 それから3ページ、4ページと、なにも書いていなかった。

 白い紙をめくって、5ページ目になったとき、再び文字が現れた。


『ここでやめろ。先に進むな』


 ドクンドクンと心臓がうるさくなった。耳に心臓がくっついちゃった気分だ。

 だけどぼくが止めたら、手がかりは見つからない。

 意を決して、次のページをめくる。


 すると、ものがたりがはじまった。




 ぼくは、大人だ。それは、当然のことだ。

 もう小学六年生。

 子どもじみた〝ウワサ〟なんか、僕は信じない。もう小学五年生なのに、信じるやつは、どうかしてる。




 まるでぼくみたいな考えの登場人物だなと思った。




 ぼくの胸の中がもやもやとする。

 ぼくだって欲しいのに。

 だけどみんなの〝一番〟は弟だ。ぼくは弟がうらやましい。ただ、そこでワガママを言ったりはしない。だって病気の弟にしっとするなんて、それこそ〝子ども〟だ。

 ただ弟がいないとき、ぼくは勝った気分になってしまう。




 ぼくの心がギュッとしめつけられた。大きく目を開き、本をじっと見る。この登場人物は、ぼくにそっくりだ。だけど、こうやって見ると、本当に――最低だ。




 ぼくは初恋の女の子を、みんなから浮かないように、遠巻きにしている。



 本当に最低だ。哀名はこんなにもいい子なのに。

 ぼくって、こんなにみにくかったのか……。

 ぼくは、ただの子どもだ。



 正義の味方のミイラ男参上! みにくい臆病者は殺してやる!



 その文字と、図書室で本を読む男の子とその後ろにいるミイラ男のさし絵を見たとき、ぼくは息をのんだ。後ろにだれかの気配がある。とっさに振り返ると、そこには包帯をグルグル巻きにしたミイラ男がいて、両手でぼくにおそいかかろうとしていた。


「うわぁあああ!!」


 ぼくは叫んだ。恐怖で体がガクガクと震えた。



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