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杏原 千鶴

変わらない物語

遙昔から、この世界には勇者が必要でした。

魔族や魔獣から人々を守り救う勇者が

勇者は試練を乗り越え己の力で聖なる剣を掴み取り

悪しき魔族や魔獣の脅威から多くの人々を救い守り

彼が死ぬまでの約50年

我が国ミファス王国や様々な各国の人々に幸せをもたらした。

とここまでは様々な本で書かれた物語


今この世界にはたして勇者は存在するのだろうか。



  俺が生まれ育った村は中規模な国の中に存在している小さな小さな村だった

 村では昔から古臭い習わしがあった

 それはいつも夜に訪れる、子供達が寝静まる前に物語を聞かせる風習だ


 俺にとってはその時間は自分を苦しめる呪いのような物語であり

 俺は大人になった今でも信じていない今でも大嫌いな物語。

 毎晩のように父や母周りの周りの大人達からある言葉から始まる物語を聞かされて。


 俺と弟は育った


 その物語の話を聞かなくても冒頭の言葉でなんの物語かわかるぐらいに、

 俺はそれにうんざりしてた。


 物語は俺以外の村奴らの人生の一部と言われても過言ではなかった。


 冒頭の物語を喋ってやろうか?


 話を聞かずとも言葉だけはすらすらと出てくる

 生まれてからずっとずっとまるで呪いのように聞いていたから


「遙昔から、この世界には勇者が必要でした。

 魔族や魔獣から人々を守り救う勇者が

 勇者は聖剣を握り

 魔族や魔獣の危険から多くの人々を救い 

 人々に幸せをもたらした。」


 例え話手が変わってもこの冒頭の掴みは変わらないこの言葉が終わったら、様々な物語の始まりだ。

 勇者様の話は多岐に渡る

 一番有名なのは勇者様の勇者伝説

勇者様が大国を滅ぼした魔王を倒しに行き 無事に討伐し人々に平和をもたらした物語 俺はこれは好きではない嫌いだ

 俺みたいに嫌味なやつが喋るのはどちらかといえば勇者様の失敗談だったりが多い俺はこっちの方が好きだったな 親にはその物語をしゃべる爺さんから結局は引き離されたりして話を聞かせてもらうことに妨害されたことがあったな。

 あとは食いしん坊のやつが喋るのは勇者様が初めて作った新しい飯の話だったり恋愛に浮かれている奴は勇者様の恋愛話や結婚話 まぁ人間の趣味嗜好に合わせ作られた物語がわんさかこの世界に存在している

 一つ変わらないのは別々の話手の物語だとしても 冒頭の掴みだけは全く変わらないこと。

 まるでループのように俺ら子供であった大人に根付いていた

 まるで呪いのように


 大人達がいつも子供達に伝えるおまじないのような物語


 もう一度言う


 俺はそれが大嫌い



 ただ昔から疑問に思うことがある この世界には物語としての勇者は存在するが

 現実に勇者は存在するのだろうか。


 いや、この魔物が蔓延った世界に勇者なんて存在しねぇよ

 ただの幻の存在さ

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