夢日記

綿串

2025-7/3-灰と色

夢を見た。


 そこは暗かった。恐ろしいほどに人気ひとけがなかった。夜で空に星の雲も月もなく、地元の建物が乱雑に並んであったように思う。私はスーパーのあったはずの位置にある市役所か公民館から外に出た。暗かった。道路の信号もついていなかった。薄暗く、足元がかすかに見えるくらいだった。女性がいた。私の後ろからすれ違うように出てきた。懐かしい気がした。顔を覚えてはいない。誰かも分からない。背が高いような気もしたし、低いような気もした。自分の背丈が伸びたのか縮んだのか、女性の身長が伸びたのか縮んだのかは分からない。ただ恐怖はなく、人がいる安心感がそこにはあった。少しその人には色がついていた気がする。明るかった。すれ違って離れて行きそうなその人の手を取った。一人にはなりたくなかった。こちらを見返した気がするが、私は顔を合わせられなかった。会話をしたかもしれない。何をはなしたのかは覚えていない。ただ声をかけてくれたような気がする。孤独が嫌なことは伝わっていた。一緒に行こうと言ってくれたのだろうか。私達は一緒に歩いた。くらい町中を進んだ。横断歩道を渡って渡って、反対側の道へ向かった。今はもうないはずの歩行者用の橋も道路の上に架かっていた。

 歩いた。歩いた。明かりが見える。地元のお祭りだ。みんながいる。誰かは分からないがきっと知り合いもいたと思う。お祭りの屋台や明るい光がみんなを明るく色づけている。そんな世界が灰色の木々の先にあった。そこまでいくのに道を右に曲がって30mもないのに私たちは真っすぐ歩いた。そこにはなぜか行かなかった。女性に手を引かれるまま、振りほどく気も起きぬまま、歩いていく。初めて明るくないコンビニを見た。24時間営業なんて夢の世界ではありえない。静寂と灰色に包まれている。少し怖くなって女性の腕を抱く。視界の端で左側の道が少し波立った気がする。やはりその女性は色づいていて抱いた腕は温かかった。夢のまぶたがゆっくり閉じそうになる。まばたきした一瞬の完全な暗闇が怖くてまた目を開ける。車屋や工場を抜け、よく渡る橋の前までやって来た。まっすぐまっすぐ、自分の家に向かっているのだろうか。境界がぼやけそうな感じがした。一瞬、鮮明に、やはり暗い世界が映って

「一緒に帰ろう」

と女性が言ってくれた。気がする。

私は手を引かれている。

その腕を抱いて、そこは少し落ち着くから、喧騒もなく静かで、一人ではないから。

ゆっくり世界が閉じて、

ゆっくりと現実の目が覚める。

私は一人で目を覚ます。

いつか昔の夢でもあの女性にあった気がした。

いつかの夢はもう思い出せない。

二度寝をしたらあの続きに会えるだろうか。

目線の先の窓の外には青い世界が広がっていた。

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夢日記 綿串 @watakusi220

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