景色を見よう
学生がぞろぞろと電車から降りると、さっきまで充満していた
――日暮屋の次は月浜です――
熱気が冷たい潮風にさらわれる。
「わたしね、来年から東京に引っ越すのよ」
遠くで女の子が楽しそうに。
「転校生が来たらしいよ、どんな子かな」
目の前で女の子がうわさ話をしている。
私は思う。窓の向こうの海は臆病なのかもしれない。
だって私をずっと見ていて、
その眼をきらきらさせている。
そんな海は、純粋な学生の声を使って
――東京に行きたくないな――
旅人である私を
――ここに住んでよ――
と呼び止めている。
そんな海の呼び声
――みんなと離れたくないな――
を私は聞いている気がした。
電車が止まるとまた、生徒がぞろぞろと降りる。
嵐の前の静けさか。
そんな車内は気味が悪かった。
辺りをぐるりと見ても誰もいなくて、夕日が作るベンチの陰影
――月浜の次は火渦です――
カモメの影、それと誰かの落とし物。
ただそれだけ。
空っぽの車内で姿勢をくずす。
すると、水晶のような淑やかな少女
――向かい側の席に――
がいることに気づいた。
黒く長い髪の毛は絹のようだ。
薄化粧をしたお顔は水晶のように透き通っている。
華奢な両手をお膝の上に乗せて、私と同じようにひとりで席に座っていた。
制服が違うから他の高校の生徒だろうか。
彼女はとても物憂げな表情で電車に揺られている。
その潤った小粒の両目は見ている。
海よりもいっそう、
ぎらぎらと強い輝きをもって私を見ている。
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