05. 義賊?黒猫を狙う者
仕事を繰り返していくうちに、ある程度のルールが出来上がってくる。
水面下で広がった噂から、俺は町の教会に忍び込んで仕事を受けるようになっていた。
顔を隠すために黒猫の面をつけていたら、いつの間にか"
世直し泥棒も悪くない。
気晴らしのため、人助けや復讐をメインで請け負っていて、おかげで転生前に荒んだ心もずいぶんと癒やされたものだ。迷子の子供を探したり、引ったくり犯を捕まえたり、善行を重ねると心が洗われるというのは本当だったな。
ボランティア的な要素が多く、悪人を狙うから通報もされない。そうして足がつかないと油断していたのが悪かったと思う。
まさか、俺を探るような奴が現れるなんて、思ってもみなかったんだ……。
夜明け前の誰もいない時間帯に、いつもの教会の扉が開いた。
本来閉まっているはずの鍵は開けてあり、黒いローブを被った人物が入って来る。
それは明らかに、誰かの庇護を必要としない体格の男だった。
「依頼を聞いていただいてもよろしいか?」
「どうぞ」
母親を貴族の馬車に跳ねられた。全財産を渡すので、復讐してもらえないだろうか? という内容だった。
「…………」
……でかい図体だな。
2mはありそうな立派な体躯を見て、自分でやったらいいんじゃないかと思ってしまった。
俺はこの手の依頼は、必ず調査期間を作ると決めている。間違いがあっては困るからだ。
「事実確認が必要だから、前金をいくらかもらってから、実際に決行するのは……」
俺がそこまで言った時、突然小窓に剣を突き入れられた。
「!」
思った通りの展開に、俺は最小限の動きで
人が1人やっと入れるような個室は、中から放つ衝撃波で小窓はおろか壁ごと吹き飛んだ。
バラバラと木の板が重なって転がる音が響く。
「魔法だと!?」
爆風で男のローブが吹き飛び、王宮所属騎士団の甲冑が顕になる。
「そんな重たい甲冑着て、俺の動きに着いて来れるのかな?」
「……何だ、捕まえて欲しいんじゃないのか? それ囚人服だろう」
俺の着ている服は、先日壊滅させた奴隷商人の屋敷にあったものだ。
これ、囚人服なんだ!? 麻で涼しいし、真っ白できれいだから好んで着ていたんだけど。なるほど、どうりで町でじろじろ見られるわけだ……。
「裏でこそこそ賞金稼ぎ及び脱税をする"黒猫"が、まさかこんな若者とは……」
剣を交え、打ち合いが続く。
「気に入らないなら力ずくでどうぞ、やれるものならな……!」
語尾を強めに言い放ち、俺が下から上に打ち上げるように放った剣の風圧に、騎士がよろめく。
その一瞬の隙に、剣の切っ先が喉を捕えた。
仰け反った拍子に襟足から伸びた
「殺しはしない主義だ、今日のところは退いてくれ」
俺は破壊してしまった修理代として巾着に入った金貨を適当な場所へ置く。
そんな様子を見ているしかない男から剣を引き、俺は教会を後にした。
----エルトニア王国 第二王子執務室
「お前が出向いて捕らえられなかった?」
エルトニアの第二王子 ユージ・エル・エルトニアは、国の軍と刑罰を司っていた。
プラチナブロンドの髪に明るめの碧眼を持ち、襟や袖の
「申し訳ございません……」
片膝をついた部下の報告を受け、調査報告書に目を通しながら危機感を感じていた。
最近犯罪者が縄で締められた状態で城門に吊るされていたり、自首する者が相次いでいた。それだけならば問題無いのだが、何やら法を無視してそれを商売にしているらしい。
多額の賞金首まで捕えているあたり、相当腕が立つのだろう。
「そんなに強いんだ?」
ユージは甘めの顔立ちに反して、好戦的な笑みを浮かべる。
"黒猫"という可愛らしい名前で暗躍しているが、詳しく話を聞けば、魔法を扱える上級剣士らしい。野放しにして良い相手ではない。
「帝国の間者である可能性はないか?」
「可能性を考えておりましたが、……無いかと、男で奴隷の首輪もありませんでした、公国の気配も無く……」
「この国の人間が、単独でこんな好き放題するかな?」
「声を聞く限りまだ若い青年のようで、政治的不満による活動かもしれません、悪政を敷く輩や犯罪者ばかりを狙っていますから」
騎士を町に潜入させて聞き込みを重ねると、とある教会で依頼することで復讐を遂げられたという噂を聞いた。一方で、金さえ積めばどんな強敵も屠ってくれるという話も聞く。
そこで並みの騎士では敵わないと思い、王国騎士団長を向かわせたが、捕えることは適わなかったということか。
だが、ターゲットは面をつけていたにも関わらず、決定的な手掛かりを残してくれた。
黒髪。そう、この国に黒髪はいない。それを隠そうとしないのはつまり、その事を知らない他国の人間である可能性が高い。
案外、普通に町を出歩いているかもしれない。
ユージは急げばすぐに片付く案件だと思い、直ぐ様「黒髪の男を何らかの容疑で捕えよ」と通達した。
そこからは早く、町中に配備されている騎士からの目撃情報が相次いだのだった。
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