恋人がいるって勝手に決めつけられても困る

柊なのは

第1話 彼女の待ち受け

 このクラスにはいつも明るくて誰とでも話せて、モデルようにすらっとしたスタイルの持ち主である女子がいる。


 その女子の名前は市原奈瑞菜いちはらなずな。何が足りないんだと思うほど何もかも完璧で男子からはモテている。だが、告白されてもお断りしているらしく彼氏はまだいたことがないらしい。


 クラスの中でもモテている男、田辺流星たなべりゅうせいと付き合ってるんじゃないかと噂もあるが実際のところどうなのか……。


 俺、佐野結斗さのゆいとは、1限目に使う教科書を机に出して、授業が始まるまで寝ようとすると教室に明るい声が響き渡った。


「おはよ! みんな」

「あっ、なーちゃん、おはよ!」

「おはよ~、なずな」

 

 カースト上位が集まるようなグループの輪の中へと入っていくと市原さんは自然と輪の中心にいて、楽しそうに話す。


 彼女の笑顔は周りを惹き付けるほど魅力的なもので多分、彼女を好きになった人はその笑顔に惹かれたのだろう。


「おっ、りゅーせいもおはよ」

「おう、おはよ。市原もおはよ」

「うん、おはよ! 田辺くん」


 田辺と市原さんが挨拶を交わすとそのグループにいる友達は微笑ましく見守っていた。


 そんな中、ある女子は田辺と市原さんを交互に見てあることを確認していた。


「流星と奈瑞菜、ほんとに付き合ってないの?」


 その質問が来ると田辺は市原さんのことをチラッと見たが、市原さんはその視線には気付かず、すぐに首を横に振った。


「あはは、付き合ってないよ。田辺くんとは仲いい友達っだって。ねっ?」

「えっ、あぁ、そうだな……」


 付き合っていないなら普通は否定するところだが、田辺は市原さんの言葉に少し表情を暗くした。


(もしかして……田辺の方は本当に好きなんじゃないか?)


 気付いたら寝ることなんて忘れて市原さんのグループのやり取りを盗み聞いていると市原さんと目が合ってしまった。


 なぜ見てるのかと怒られるかと思ったが、彼女はニコッと笑いすぐに俺から目をそらした。


(ビックリした……)


 唐突な笑顔に一瞬ドキッとした。見ていたことがバレたドキッかもしれないが。




***




 昼休み。いつもなら男友達と教室で食べるが、今日はその友達が休みのため俺は1人、中庭に出て落ち着いて食べることができそうな場所を探した。


 1人で食べることに気付いた幼馴染みが教室で一緒に食べようと誘ってくれたが、その幼馴染みである彼女は普段、女子グループで食べているのでその中に俺が入るのにはさすがに抵抗があり、断った。


 女子と話すのは苦手ではないが女子の中に1人入っていくのにはかなり勇気がいる。


 中庭の空いているベンチを探し、校舎裏を覗くとそこには1人座っておにぎりを美味しそうに食べている市原さんがいた。


 珍しい。いつもなら彼女はあのグループで食べているのに。


 喧嘩でもして一緒に居づらいのかなと思いながら彼女を見ていると視線に気付いた市原さんと目が合ってしまった。


 その場から立ち去ろうとしたが、市原さんは俺を呼び止めた。


「佐野くん、ここ座る?」

「えっ……あっ、いや、大丈夫」

「えー、遠慮しなくてもいいのに。ほれほれ、私1人だしお隣どうぞ」


 お弁当を持って端に移動した市原さんは俺に太陽な眩しい笑みを向けた。


 市原さんと2人でお弁当食べてるところを見られたら数人から敵意を向けられる日々が始まりそうだな……と思いつつ断ろうとしたが、市原さんのニコッニコッな笑顔を見て断ることなんてできなかった。


 失礼しますと彼女の隣に腰かけるとなぜか市原さんは笑っていた。


「ふふっ、失礼しますって、面接みたい。佐野くん、面白いね」

「面白いことは言ったつもりはないけど……」

「いやいや、言ってたよ。てか、佐野くんっていつも宮城くんと食べてなかったっけ?」

「あぁ、そうだけど、大樹は休みだから。市原さんこそいつも友達と食べてなかったっけ?」

「あ~、そうなんだけどね…………」

 

 聞いてはいけないことを俺は聞いてしまったのだろうか。市原さんは暗い顔をして空を見上げた。


「1人になりたいときがたまにあって……あっ、別に友達が嫌いとかそういうのはないよ? みんな優しいし、一緒にいて楽しいから」


 誰かといる時間が嫌いなわけじゃない、けど、1人になりたい時がある市原さんの気持ちは俺もわかる。俺もたまにあるし。


「って、私のことはよくて。佐野くんってもしかして自分でお弁当作ってきてるの?」


「ん? あっ、まぁ……親が仕事で忙しいから」

 

「えっ、すごっ! 料理できる男子とカッコよすぎるんだけどっ!」


「ありがと、そんなこと初めて言われた。市原さんはお弁当作ったりしないの?」


「あはは、私は料理苦手だからなぁ~。だから料理できる佐野くんは凄いしカッコいい」


「苦手なんだ……何か意外かも。試験ではいつも上位にいるし、誰とでも仲いいし、何でもできる完璧人かと思ってた」


 普段の彼女を見た通りに答えると市原さんは驚いた表情をした。


「私、全然完璧人じゃないよ。不器用すぎて裁縫とか苦手だし。完璧人と言えば、田辺くんじゃないかな?」


「確かに田辺はそうかも」


「でしょでしょ? そんな田辺くんと私がお似合いってみんな言うけど私はお似合いじゃないと思うんだ」


「絵になるような2人ではあるな」


「絵になるか……」


 市原さんはそう呟くとおにぎりを何かを考えながら食べて口の中になくなると口を開いた。


「私、告白とか何度かされたことがあるけど恋愛に関して全くわからないんだよね。恋するって、どんな感じなのかな?」


「どんな……か」 


 俺もわからない。今まで異性を好きになったことなんてないから。恋愛なんて無縁だと心の中で思っている。


 卵焼きを口の中に入れて、食べていると通知音がし、その音がした方へ視線を向けるとスマホの画面にはほぼ服を着ていない女の子のキャラクターが写っていた。


(これって…………)


 スマホの画面から顔を上げると市原さんと目が合い、そして彼女の顔は真っ赤になっていった。









★お待たせしました、長編新作です。

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2025年12月26日 00:03

恋人がいるって勝手に決めつけられても困る 柊なのは @aoihoshi310

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