第5奏パート1:後編「カウントダウン、揺れる心と夏の空」Countdown — A Heart Trembling Beneath the Summer Sky

ー07:00ー


今朝はいつもより早く目が覚めた。


8時のアラームよりも先に、小鳥たちの囀りが耳に届く。


いつぶりだろう、こんなに早起きしたのは。


きっと、緊張とワクワクが入り混じっているからだ。


そんな気持ちを持てている自分に、少し嬉しさを覚える。


「湊♪♪ おはよう♡ 今日はいつもより早いけど、ちゃんと眠れた?」


ノゾミの声とともに、僕の朝が始まった。


「うん、ちゃんと寝れたよ。それに……なんだか言い表せない気持ち。いや、ワクワクしてるんだと思う」


僕の言葉に、ノゾミは優しく微笑んだ。


“えへへ、私もだよ”


窓から差し込む朝日を受けた彼女は、いつも以上に輝いて見えた。




ー11:15ー


「新宿駅に到着致しました。足元にご注意ください」


お決まりの機械音が、到着を告げる。


駅の外に出ると、巨大なXR掲示板に今日のマーウィン討伐イベントの告知が映し出され、街全体が祭りのような熱気に包まれていた。


僕たちは専用ゲートを使ってGS新宿店へ向かう。


一般ゲートは相変わらず長蛇の列で、その光景を見た瞬間、“ゴクリ”っと喉が唸り、緊張で手のひらに汗が滲んだ。



ー11:35ー


入館手続きを終え、カプセル前で陸と合流する。


「湊から話聞いたときはマジでビックリしたよ。今日までワクワクが止まらなかった!」


陸はそう言って、満面の笑みを見せる。


「私もです♪♪ またこの世界で3人で冒険できるのが楽しみです♡」


ノゾミの言葉に、陸も素直に心を預けている。その姿を親友として見られるのが、僕には嬉しかった。



ー11:50ー


カプセル前には、僕たちのチームを含め十数組のプレイヤーたちが集まっていた。


有名なインフルエンサーの姿もあり、彼らの話題は「謎の魔降技師」──つまりノゾミのことだった。


無理もない。


ノゾミのプロフィールには、スキル説明と「好きなもの:麺麺亭のチャーシューマシマシ背脂こってりラーメン」としか書かれていないのだから。


思い出して吹き出すと、ノゾミが首をかしげて僕を見つめてきて、緊張が嘘みたいに消えていった。


直後、肩に強い衝撃。


振り返ると、陸がブサイクな笑顔を浮かべていた。


「いつも痛いんだよ! そろそろ加減覚えろよな!」


っと、どつき返す僕。


多分、陸なりに僕が緊張しているのを察したんだろ。


陸はケラケラ笑いながら言った。


「ワリーワリー。でもさ、巫女狐神さんは? この時間で居ないのはヤバくね!?」


その言葉で我に返る。


そういえば……彼女の姿がない。


「巫女狐神さんなら……秋葉原店が近いらしくて、そっちでログインするそうですが……マーウィン内で合流しましょうって、先ほど連絡がありまして……」


ノゾミの説明に、僕は驚きを隠せなかった。


陸は「マジかよ〜」と笑っていたが……


ノゾミの表情はどこかよそよそしかった。



ー11:59ー


59、


58、


57──。



シエルのカウントダウンが始まる。


ノゾミの変化が気になったが、今は胸の奥にしまっておくしかない。


僕たちはそれぞれのカプセルに入った。


視界が閉ざされ、暗闇が広がる。



10、


9、


8、


7──。


光と音が一気に流れ込み、景色が変わっていく。



3、


2、


1……


GO!!!



ー12:00ー



僕の意識は深くマーウィン世界へとダイブした。


この日が、僕にとって──いや、マーウィン全体を揺るがす日になるとは思っていなかった。

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