第3話

 彼を好きだと自覚してから、私はおかしくなってしまった。

 連絡が来ると嬉しくなるし、デートの誘いが来ると速攻新しい服とメイク用品を買い漁る。

 彼にもっと可愛いと思って欲しくて、気合を入れてしまう。

 そんなことをしていても、心の奥底ではもう1人の私が告げる。

『好きになったことがバレた途端、彼は冷たくなるに決まっている』

 今まで付き合ってきた男性がそうだったから、彼もそうだと心の中で訴えてくる。

 そんなことない。彼は違う。と思いたいが、完全にそう思えず苦しくなる。

 彼はいつまで私のことを好きでいてくれるのだろうか? 優しくしてくれるのだろうか?

 そんな不安で眠れない日々を送るようになっていた。


 *


 『今度映画にでも行かない?』

 

 彼からのそんなLINEに、私は急いで『いいよ、何見るの?』と返した。

 最近は仕事が忙しいとかで、デートのお誘いは減っていた。LINEが出来るだけでも幸せだと思わなきゃ、そう考えていた矢先のことで激しく舞い上がった。

 早速服をネットショッピングで漁り、どんなメイクをするかを考える。この時間がとにかく楽しかった。

 彼に会えるのが嬉しくて、楽しみで、私はとにかく浮かれていた。

 前日に来たLINEを見るまでは……。


 *


 私は明日着ていく服を身につけ、服にあったメイクを施し、姿鏡でくるくると回る。

 おかしなところはどこにも無さそう。私は鏡に向かってにっこりと笑ってみた。

 うん、今日も私は可愛い。彼もきっと可愛いと思ってくれるはずだ。そう思い、ふふッと声を漏らした。

 ピロンっという音が鳴り、私は素早くスマホを手に取った。

 思った通り彼からの連絡で、心を躍らせながらトークを開くが目に入ってきた文字に私は凍りついた。


『ごめん、明日行けなくなっちゃった。別の日に映画行こう』


 急なキャンセルに目の前が真っ暗になっていくようだった。どうして? その言葉だけが頭の中を占める。


『どうしたの? 理由は?』


 私は彼に理由を問う。彼からの返事は来なかった。待っても、待っても彼からは返事が来ない。

 とうとう頭に来た私は、スマホを枕に叩きつけた。


「なんで?! どうしてよ! 私だけが楽しみだったわけ?! ありえない!!」


 1人で叫びながら頭を掻きむしった。ぶちぶちと毛束が抜けてしまっているみたいだが、気にもならなかった。

 私は自称行為の時に使うカミソリを掴み、勢いよく手首に滑らせた。

 あまりの勢いにいつもよりも深く傷が入ったのか、ダラダラと血が溢れ始めた。

 その血の量に冷静に思考は冷静になるも、身体を動かす気にはなれなかった。

 じわじわと血が床を汚す。あとで掃除が大変だろうなぁとぼんやりとしながら考えた。


 *


 どれだけぼーっとしていたのだろうか? 気づけば時計の針は24時を指していた。

 手首の傷はすっかり血が固まり、痒みが出始めていた。

 ポリポリと痒いところをかくと瘡蓋がペリッと剥がれる。剥がれたところから新たに血が滲むが、もうどうでもいいだろう。

 このまま放置すると後がめんどくさい。とりあえず、流水で傷口を洗いながら瘡蓋もどきを剥がしていく。

 消毒をし、バンドエイドを貼り付けた。それだけだと心許ないので、軽く包帯を巻き、手当を終えた。

 ふぅ……っと息を吐き、ベッドにダイブする。ふかふかの布団に眠気を誘われ、私はその欲求に従い目を閉じた。

 

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