第6話 ただいま、私の〈魔女図書館〉①
『魔法都市クロノス』に到着した。
リサリ村からは、馬車でだいたい五日ほどかかった。
勿論途中で宿屋に寄って宿泊したりした上でかかった日数だが、それでも馬車の固い座席に揺られて背中と腰が痛くなってしまった。
それでも無事に着いたのだからよしとしよう。
「相変わらず、ここは凄い人だな~」
大通りの中を箒を手に歩きながら、私はそんなことを呟く。
この場所は相変わらず凄い人だ。
どんな通りにも必ず人がおり、大通りともなればほんの短い時間でどれだけの人間とすれ違うかわからない。
人の多さ、建物の多さ、商店や露店の多さ……どれを取って見てもまさに大都会といった感じ。
賑やかと言えば聞こえはいいが、喧噪のあまり人酔いしてしまいそうでもある。
この雰囲気は相変わらずだな、と思う一方で、五百年前と比べても流石に人が多すぎるし景観もだいぶ変わっている気もするな、なんて思ったりも。
『魔法都市クロノス』に到着した私は適当な宿屋で一泊し、今日司書試験を迎える。
司書試験の会場は〈魔女図書館〉であるらしく、私はテクテクと真っ直ぐ向かう。
『魔法都市クロノス』は中央区・東区・西区・南区・北区と大きく五つの区画に分けられているが、〈魔女図書館〉はその中の中央区に建っている。
これも五百年前から変わっていない。
そして――私はようやく辿り着いた。
赤煉瓦で建てられた、大きな大きな建築物。
屋根は灰色で、正面入り口に向かう大きな階段があり、その前には噴水がある。
間違いない。
この五百年の間に増改築が行われたらしく、当時と比較してやや様変わりしているが、面影はしっかり残っている。
そんな懐かしい場所を目の前にして、
「――ただいま、私の〈魔女図書館〉」
思わず、私は笑みをこぼしてそう呟いた。
帰ってきたんだ、ようやく。
私の家。私が人生を費やした場所。
二度目の人生を送っている今は両親がいるリサリ村が故郷であるが、ならばここは一度目の人生における故郷。
生まれた場所というワケではないが、そう呼べるほどに愛着を持っている。
懐かしいな――本当に――。
メルティナ・ロウレンティアに転生してから十二年。この十二年は長かったような気もするし、短かったような気もする。
なんだかちょっと泣きそうかも。
だって五百年だよ?
五百年経っても私の〈魔女図書館〉は残っててくれたんだよ?
これってもう相思相愛だよね?
〈魔女図書館〉は私を待っててくれたんだよね?
あーもう〈魔女図書館〉と籍を入れちゃおうかな。
いや流石にヤベー奴だと思われるか。
などと内心で惚気ながら、私は階段を上って建物の正面入り口へと向かう。
私の他にも司書試験の受験生らしき者たちがぞくぞく入り口へと向かい、入場順番待ちの列へと並ぶ。
正面入り口には試験官らしき男性が二人立っており、受験生たちは証明書を提示して中へと通されていく。この試験官たちは男性なので魔導士だ。
〈魔女図書館〉なのに男がいるというのは違和感だが、それも時代の流れなのだろう。気にするほどのことでもあるまい。
ふんふんふ~ん♪
図書館の中はどうなってるのかな~、やっぱり五百年経って色々変わってるのかな~♪
本の冊数もかなり増えたって聞いたし、楽しみ~♪
……いや、待て待て。浮かれるのは早いぞ私。
ここは所詮スタート地点。私には黒歴史本を回収するという至上命題があるのだ。
その目的を達成するまで図書館を満喫しようなどと……。
……でも、やっぱりちょっとくらい満喫してもいいよね?
なにせ五百年ぶりなんだし?
〈魔女図書館〉だって私を待っててくれたんだし?
司書試験に受かったら一ヵ月……いや二ヵ月は本に埋もれる生活を送ったって……!
なんて思っている内に、列に並んでいた私の番がやってきた。
「証明書を」
「はい、こちらですとも」
えっへん、と自慢げに証明書を掲げて見せる私。
だが証明書を見た試験官は眉をひそめ、
「ん……? ああ、お前は
「はへ?」
「お前に司書試験を受ける資格はない。即刻この場から立ち去れ」
などと、突然そんなことを言い出した。
「は……はいいいいいいいいいい!? な、なんで!? どうして!?」
「うるさいなぁ、これだから田舎者は……」
試験官は如何にも怠そうな顔をしてため息を吐く。
なんだかとても態度が悪い。
「パトラ地方ノースウッド領って、確かもう何年も司書試験に受かった人材を輩出していないだろう。そういうやる気のない地域の人材は、試験資格を剥奪されると決まったんだよ」
「な、なにそれ? そんなの村長たちから聞いてない! 一体いつ決まったの……!?」
「さあ、ひと月前だったか、それとも昨日だったかもしれないな」
如何にも舐め腐った態度で言う試験官。
そんな彼を見て、もう一人の試験官が笑いを堪え切れずブフッと吹き出す。
ああ、これはアレだ。よくある田舎者いびりってヤツだ。
この試験官たちは大方『魔法都市クロノス』出身か、でなければ他の大きな町に生まれた
この雰囲気を見るに、たぶん前者だろうけど。
『魔法都市クロノス』は首都にして巨大な都市であり、そこで生まれ育った者たちは「自分たちは国家の中枢で生まれ育った」という強い自負を持っている。
なので昔から地方出身者をやれ田舎者だのやれ芋臭いだのとバカにして差別する傾向があり、この風潮は五百年前にもあった。
やれやれ、五百年も経ったのに人間の品性というのは中々進化しないらしい。呆れたモノだ。
「そもそもなぁ、ノースウッド領なんてド田舎に人間が、司書試験に受かろうなんて考えがおこがましいんだよ。都会と田舎じゃ魔法のレベルが違うんだ。恥を知れ」
「はぁ……別に恥でもなんでもいいですけど、とにかく通してくれます?」
「ふざけるな。あんまりゴチャゴチャ言ってると警護を呼んで摘まみ出すぞ」
試験官は不機嫌さを隠そうともせず言うが、直後にニヤニヤと笑みを浮かべ、
「まあそうだな、お前が誠実な態度を見せられるかどうか次第では、考えてやらなくもない」
「と、言うと?」
「司書試験を受けるチャンスを頂きありがとうございますという気持ちを、形として渡すんだよ。わかるだろ?」
右手の人差し指と中指に親指を擦り合わせ、彼はジェスチャーをして見せる。
つまり、賄賂を渡せということらしい。
なんなら最初からコレが目的だったのだろう。
はぁ~~~もお~~~。
付き合い切れない。それがいい歳の大人が十二歳の子供に言うことか?
前世で一番貧乏してた頃だって、私はそんなみっともない真似しなかったぞ。
いやまあ、転生してるから厳密に言えば私は十二歳ではないけどさ。
やれやれ……と私は頭を抱えつつ、
「はぁ……わかりました」
「ふむ、いいだろう。ではさっさと――」
「そんなに欲しいならお金くらいあげますが、この件は監査委員会と税務管理局に報告してもよろしいですね?」
私がその名称を口に出すと――試験官の男はピクッと頬を引き攣らせて顔色を変える。
どうせ私が田舎者の
でもお生憎様、現代の〈魔女図書館〉の組織構図や『魔法都市クロノス』の行政については、それなりに頭には入れてきている。
現代の〈魔女図書館〉は、『聖プロトゴノス帝国』行政管理の下で公法人化されている。
公法人ともなると当然組織内に監査委員会が設立されるし、税務管理局といったお金の動きを監視する外部組織にだって睨まれる。
これも当たり前だが、〈魔女図書館〉に限らず公法人化された組織では賄賂は認められていない。
幹部たちが裏でやっていることは知らないが、少なくとも表立っては絶対にNG。
そんなことを許せば不正も粉飾決算もやりたい放題になるし、極端なことを言えば『聖プロトゴノス帝国』の
だから組織内に監査委員会が設置され、おかしなお金の動きがないか見張っている。
これは「私たちの組織は清廉潔白に運営されていますよ」というアピールであり、外部組織に弱みを握られないようにするための風紀取り締まりという役割も担っている。
基本はここに報告すれば対応してくれるだろう。
仮に、である。もし監査委員会も腐敗していて私の話を聞いてくれなかったとしても、税務管理局に今回の話をタレコミすれば「待ってました」とばかりに即座に動いてくれるはず。
賄賂というのは結局、決算書に載らない収益であり裏金。端的に言って脱税。
税務管理局からすれば真っ先に摘発する対象だし、自分たちの組織がしっかり仕事してますよと世間にアピールして国から予算を計上してもらう最高の狙い目。
司書試験の試験官が賄賂を強請してきたということは、これまでも同様の事例があった可能性が高く、他の試験官たちも同様の行為を行っていたのでは――と芋づる式に調査の手が入り、〈魔女図書館〉の運営はしっちゃかめっちゃかにされるだろう。
その責任を取るのは現館長となるであろうが、それ以前にこの試験官の男はクビだろうな。というか最悪牢屋にぶち込まれると思う。
愛する〈魔女図書館〉がそんな風になってしまうのは私だってめちゃくちゃ嫌だけど、腐敗した〈魔女図書館〉を見るのはもっと嫌だ。
そもそも、こんな品性の欠片もない者が〈魔女図書館〉に在籍していること自体許し難い。
「それで、報告してもいいんですね?」
「ぐっ……お、お前……!」
私は鋭い目つきで脅し返す。
田舎者の
賄賂を強請された時どうするかなんて、普通の十二歳なら知らなくて当然だが……生憎と私は普通ではないからな。舐めるなよ、
――――――――――
~(˘▾˘~)
もし少しでも「面白くなりそう」「既に面白い」と思って頂けましたら、どうか★★★評価とブックマークをよろしくお願いします!
評価を頂けると、大変励みになります……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます