第5話 十二歳になりまして


 メルティナ・ロウレンティアとして転生してから、十二年の歳月が流れた。


 月日が流れるのは早いモノで、この肉体も既に十二歳。

 身長もすっかり伸びて、今や百三十五センチ。


 ……十二歳の少女にしては些か身長が低い気もするが、まあいいだろう。

 きっとこれからもっと伸びるのだから。

 ……伸びるよね?



 ――六歳で〈魔女図書館〉の司書を目指すようになってからというもの、私はこの時代の魔法の知識を可能な限り頭に詰め込んだ。


 当然得られる知識には限度があったし、もっぱら本からの学習と、両親の知り合いの魔女などに魔法を見せてもらうといった手段に頼るモノであったため、この時代の魔法の全てを知ったなどとは口が裂けても言えない。


 それでも概ねこの時代の魔法は理解できたんじゃないかと思う。

 なにせ基礎の部分が五百年前と全く変わっていないからね。

 理解不能な事象にぶち当たらなかったというのも大きいだろう。


 しかしどれだけ得られる知識が限られようと、私はなんとしても〈魔女図書館〉の司書にならねばならなかった。

 司書になって、我が人生の黒歴史を回収せねばならなかった。


 今この瞬間にも、世界にばら撒かれた私の黒歴史本が多くの人の目に触れ、あまつさえ人々を危険に晒している……。


 もう無理。考えただけでも吐きそう。

 そもそも黒歴史本を【魔導書グリモワール】だなんて呼ぶのもやめてほしい、本当に。恥ずかしいったらない。


 一刻も早く、黒歴史本を回収したい――。

 私の司書になるという決意は、相当に固かった。


 ともかく、私はようやく〈魔女図書館〉の司書試験を受けられる最低年齢・・・・となったのだ。


 〈魔女図書館〉の司書試験を受験するために必要な最低年齢は十二歳、最高年齢は三十歳。

 十二歳以下はいくらなんでも幼すぎるという理由で、三十歳以上は司書という業務を一から覚えてこなしていくには歳を取りすぎているという理由で、この年齢制限が設けられているらしい。


 年齢の他にも、受験のためには魔法を扱う才能と優れた頭脳があることを証明し、証明書を発行してもらう必要があった。


 その手段は幾つかあり、都会か田舎か、また上流階級の出身か中流階級以下の出身かなどでも異なってくるそうだが、田舎の下流階級出身である私の場合は、リサリ村の村長とノースウッド領の領主に「司書試験を受ける資格あり」と認めてもらうことだった。


〈魔女図書館〉の司書試験は相当に難易度が高いらしいが同時に人気でもあるようで、倍率も非常に高いのだという。

 一方〈魔女図書館〉の側からしたら「知識も才能のない者にはそもそも受験してほしくない」らしく、事前に振るい落としが行われる。


 これは今の〈魔女図書館〉が『聖プロトゴノス帝国』の下で公法人化されており、国との間で密な繋がりがあるからできるのだとか。

 五百年前も一応国との繋がりはあったが、そこまでの扱いではなかった。

 いやはや私の図書館も大きくなったモノだ。


 私の住まう地域では受験する資格があるかどうか事前の筆記試験を行い、さらに村長と領主の前で魔法の手腕を披露する実技試験をせねばならなかった。

 つまり受験資格を得るための試験をしなければならなかったワケだ。


 なんとも非合理というか不毛というか……しかしまあ人気職となると五百年前にも似たような事例はあったし、人が集まってくるとどうしてもそういう対応をせざるを得ないのだろう。


 私はその受験資格を得るための試験で、ノースウッド領内最高成績を収めた。

 なんなら歴代最高成績・・・・・・を収めた。


 ……こんな言い方をしてしまうのは少々気が引けるが、正直に言うと肩透かしもいいところだった。

 どんな無理難題を提示されるかと思ったら、筆記試験は基本的な知識ばかりの問題だったし、実技試験では適当な魔法を発動したらすぐに証明証の発行を約束してくれた。


 ちなみに筆記テストは満点。

 さらに私の魔法・・を直に見た村長と領主は、驚いて椅子から転げ落ちていたほど。


 この時、私の魔法と更新しただけの知識がまだこの時代でも通用するんだと安堵したと同時に――思ったものだ。

「あれ? なんだか案外レベル低い……?」と。

 だってあまりにも楽に突破できてしまったのだもの。


 まあまあ、今回はあくまで受験資格を得るための試験。

 それに田舎での試験だったし、本番となれば話も違うかもしれない。

 むしろ違うことを期待しておこう。


 そんなこんなで、私は〈魔女図書館〉の司書試験を受ける資格を得た。

 そして――


「それではお父さん、お母さん、行ってきます」


 司書試験へ挑むため、いよいよ実家を経つ日がやってきた。


 魔法を扱うことのできる私は一応既に魔女なので、魔女らしい格好をしている。

 大きな大きな三角帽子、ふわっとした着心地のローブ、そして私の身長と同じくらいの長さの箒。

 この三角帽子、ローブ、箒という三点セットは五百年前と変わらない。

 当時の魔女も似た格好をしていたし、これは伝統となっているのだろう。


 ただ一方で、やはり当時と変わっている部分もある。

 それはローブの下に履くスカートの丈が何故かかなり短く、十二歳の健康的な太股が思いっ切り露出している。

 これは服を拵えてくれた仕立屋曰く「トレンド」とのことらしい。


 昔は当たり前だったロングスカートと比べて、確かに動きやすくはあるが……なんだかスースーするなぁ……。まあ、格好なんてどうでもいいけど。


「うむ。司書試験、頑張るんだぞ」

「メルティナ……無理しちゃダメよ? もし受からなくても、お母さん責めたりしないから……」

「大丈夫だよ、お母さん。私は精一杯やるだけだから」


 母を安心させるべく、できるだけ落ち着いた口調で微笑む私。


 試験会場へは私一人で向かう。両親の同伴など当然なし。

 これから司書という公務に就いて働くために試験へ向かうというのに、親に甘えたままなどあってはならない。


 司書に就けば一人前の大人として見られるのだ。ならば今からその心構えを持って挑むべきだろう。

 それになにより、両親にはこれ以上迷惑をかけたくないしな。


 父トドックと母ロベリアは、本当にいい人たちだ。この十二年間、二人は深い愛情をもって私を育ててくれた。

 もし彼ら夫婦の下に生まれていなければ、私の二度目の人生はどうなっていたかわからない。


 私はこの二人の娘として生まれられて、本当によかったと思う。

 両親は私が前世で体験することのできなかった親の愛情というものを教えてくれた。

 これだけで、私が両親を愛する千の理由足り得る。


 本音を言えば、この両親の下でいつまでも愛されていたいとも思った。

 それだけ心地がよかった。


 でに、甘えてばかりではいけない。

 それでは二人に迷惑だし、どの道いずれは自立することになるのだ。

 であれば、早い方がいい。

 そうすれば残りの人生、二人を自由にしてあげられる。


 前世では親孝行というモノができなかった。

 なら、今世でそれくらいの親孝行をやってもいいだろう。


 それに私には黒歴史本を回収するという責務があるのだ。

 タイミング的にも丁度いい。


「たまにはお母さんの手料理を食べに帰ってくるよ。だから心配しないで」

「ええ、いつでも帰ってらっしゃい。私たちはいつでもあなたを待ってるから……」


 最後に、父と母は私を強く抱擁してくれる。

 そうして私は迎えの馬車に乗り、リサリ村を後にした。


 箒に乗って魔法で飛んでいくという移動方法を使ってもよかったが、流石に長距離となると魔力の消費も激しいし、なにより両親を心配させてしまうので馬車を使うことになった。


〈魔女図書館〉の司書試験は、『聖プロトゴノス帝国』の首都で行われる。


 ――『魔法都市クロノス』。

 それが首都の名前であり、この都市名は五百年前から変わっていない。


 魔法による統治が行われ、魔法を尊び重んじる、実に『聖プロトゴノス帝国』らしい名前の都市だ。


 都市の総人口は百万人以上。

 五百年前はせいぜい二十万人程度だったはずだから、この五百年の間に随分と増加したらしい。


 立場上は首都であるが、その経済規模は凄まじく、『聖プロトゴノス帝国』国内総生産の大部分を占めている。

 そのため『聖プロトゴノス帝国』にあるもう一つの国と言ってもよく、他国から見ても世界有数の経済特区とされている。


 それだけの経済を支えているのは、勿論〝魔法〟。

『魔法都市クロノス』には世界で最も多くの魔女や魔導士が暮らしているとされ、この特徴も他国では類を見ないのだとか。


 まあ……そんな場所であるが故に、魔女や魔導士同士のいざこざや確執が絶えなかったのだが。


 五百年という時を経て、都市観も含めその辺りもどうなっているやら。

 色々な意味で楽しみだ。


――――――――――

( ·ㅂ·)و ̑̑

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