002 バッファローとトマトのステーキ

 人々が自由気ままに冒険する時代。

 街の人々からの依頼を受け、その対価に報酬を貰い、次の日を生きる。

 そんな自由気ままな世界つをする者たちを誰かが「冒険者」と呼び始めてから幾数年。人々が住む街には「冒険酒場」と呼ばれる、冒険者と彼ら用の依頼が集う場所があることが当たり前になった。

 これは、とある街にある冒険酒場の物語――。



【冒険酒場 葉 の日常】



 酒場を併設した、冒険酒場「葉」は今日も大賑わいだ。数人のエプロンを着た店員が、右へ左へと賑わっている店内を歩き回る。

 知り合いはダンスのようだ、なんて言っていたが店員にとってはここが戦場。戦場で踊るのだから、西の話でよく聞く「踊るように敵を狩る」というものに例えた方がいいのではと思う。が、それはそれ、これはこれ。

 ここの酒場のメニューは、壁に掛けられた「今日のメニュー」のみというのは、この街を拠点にする冒険者なら誰でも知っていることだ。

 その「今日のメニュー」を見て、気になった私は近くにいた店員に声をかけ注文した。


「バッファローは分かるが、トマトとは……」


 しばらくして、木の皿に盛り付けられたそれをテーブルに置かれる。それを見て気分が上がるのが自分でも分かってしまった。――これから、今日のメニューという「バッファローとトマトのステーキ」にありつけるのだから!

 まずは、バッファロー。厚切りにされたバッファローの焼いた赤身にかけられているのは塩と胡椒。塩は少なめだが、胡椒は粗挽き。見るからに辛そうな見た目をしているが、さほど辛くはない。

 続いて、トマト。薄切りにしたトマトを焼くとは、これまた珍しいことだ。一般的にこの地方ではトマトは煮込み料理として使うことはあるが、焼いて食べるなんて聞いたことが無い。口に含んでみれば、焼いたトマトの甘みが口いっぱいに広がる。それが、美味しいことこの上ない。

 ――そして、私は思いついてしまった。この二つを組み合わせたら、どうなるのだろう。と。

 バッファローのステーキに、トマトの薄切りをのせ、一気に口へと含む。

 すると、どうだろう。

 バッファローのステーキにかけられていた塩が、トマトの甘みを増幅させ、粗挽きの胡椒との相性もさることながら、肉との相性もいい。

 なにより、脂肪分は少ないがどこか重いバッファローのステーキが、トマトのわずかな酸味でさっぱりと食べられるのだ。

 辺りを見てみれば、同じことを考えているのだろう。そんな人間がちらほら。

 ――だが、ここまでバッファローのステーキがさっぱりと食べられるとは。「葉」の厨房担当は相当な腕前と分かる。



【冒険酒場 葉 の日常】 バッファローとトマトのステーキ



「ちょうど、バッファローの討伐依頼書も貰ったし、少し肉を分けてもらうか」


 口に頬張ったそれを私は胃に収めて、事前に貰った討伐依頼の張り紙を眺めることにした。

 目当てはもちろん――副報酬狙いで。

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