冒険酒場 葉 の日常
紅莉
001 竜肉のシチューと堅焼きパン
人々が自由気ままに冒険する時代。
街の人々からの依頼を受け、その対価に報酬を貰い、次の日を生きる。
そんな自由気ままな世界つをする者たちを誰かが「冒険者」と呼び始めてから幾数年。人々が住む街には「冒険酒場」と呼ばれる、冒険者と彼ら用の依頼が集う場所があることが当たり前になった。
これは、とある街にある冒険酒場の物語――。
【冒険酒場 葉 の日常】
冒険酒場には、併設している店があることが特徴である。武器防具屋、雑貨屋などの冒険に必要不可欠なものから、宿屋などと言った生活に必要なものまで。
その中でも一際多いのは、冒険酒場の名の通り「酒場」である。酒や料理を提供する、冒険者にとっては憩いの場と言っても過言ではない。
ここ「葉」と名のついた冒険酒場も酒場が併設された冒険酒場の一つだ。
店内は狭く、それでも中にはたくさんの人々で溢れていた。
そんな店内を、数人のエプロンを来た店員が人々の隙間を縫うように右へ左へと客に料理を受け渡す。まるでダンスをしているかのように華麗に動き回る姿を見て、料理が来るまでの間の時間を過ごすのだ。
常設のメニューというものは、この店には存在しない。仕入れた素材がその日によって変わるのだから。――というのが、葉の方針らしい。
壁に掛けられた「今日のメニュー」が、唯一のメニュー表。
その中でも、一際目立つように書かれた「竜肉のシチュー」。
竜肉と言えば、そもそも市場に出回らないため手に入りにくいうえで、討伐し入手するのも難しい。希少な一品だ。
肉が柔らかく美味しいらしいのだが、一般的には厚切りで焼いて食べるもの。それをシチューにするとは……。
あふれ出るものを飲み込み、近くを通りかかった店員に「竜肉のシチュー」を頼む。
さっとメモを取った店員は、奥へと戻り、すぐにまた店内へと戻ってくる。手には、木のボウル。そのボウルからは湯気とおいしそうなにおいが漂ってきている。
「おまたせしました~。竜肉のシチュー、です!」
赤黒いスープに沈む、煮込まれた竜肉の塊。野菜はほどほどに、赤黒いスープからは香ばしい、いい匂いが。まさに、依頼で力仕事が多い冒険者には嬉しいスープだ。l特に今日は寒いから、温かいスープはさらに嬉しい。
温かいスープの中から、スプーンで肉を取り出す。
一口大に切られたその肉の塊を、口の中へと入れる。肉が柔らかいからか、すぐに溶けてなくなるそれをさらに頬張りたくなるのは、人間の――いや、自然の摂理だろう。
それと同時に広がるのは甘辛い、シチューの味。野菜が無いと思っていたが、煮込んで溶けてなくなっていたのか、野菜の甘みが空腹だった胃袋に浸み込んでいく。
そうやって堪能していると――隣に堅焼きパンが置かれた。
置かれた方面を見てみれば、一人の老紳士が、親指を立ててこちらを見ていた。
頂いた堅焼きパンをちぎり、シチューに浸してみる。
すると、パンがシチューを吸い込み赤黒く染まった柔らかいパンになったではないか。
口に含めば、シチューが浸み込んだパンが、口の中でゆっくりと解けていく。その美味しさに、再び老紳士を見れば、笑っていた。
「はは、普段は味気の無い堅焼きパンも、こうして食べると美味しい。不思議だろう?」
老紳士は、そのまま代金を店員に渡すと、颯爽と店から出ていった。
その姿に惚れ惚れしながら、俺は最後の一口を頬張ると、辺りを見渡す。まだ店員は駆け回っており、客の足も途切れることはない。
【冒険酒場 葉 の日常】 竜肉のシチューと堅焼きパン
混みあっている店内を眺めながら、俺は依頼の張り紙を見に行くことにした。
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