第18話 ケリェトに戻ろう。
ロニは、店主から受け取ったゴブリンのエサと雑貨を荷車に乗せ、森の入り口で待機させていたゴブリンたちに手渡した。彼らは荷物を託されると、嬉しそうにそれを抱え、村へと戻っていった。
ロニは店に戻り、荷車を店主に返した。改めて、心から礼を言う。
「色々、ありがとうございました」
店主はロニのいつもと違う様子に気づいたようだったが、何も言わず、ただ優しく頷いた。
「気を付けて帰るんだよ」
店を出た後も、ロニの頭の中は衝撃に揺れていた。父が陥れられたこと。そして、自分が「行方不明」として扱われていること。父を失った原因が、特定の人物の悪意だったという事実は、ロニの心を深く傷つけると同時に、強い怒りを呼び起こした。
ケリェトにもう一つあったペットショップ。ロニは記憶をたぐり寄せた。そう、確か、あの店の店主の名前は「ゴドロック」と言ったはずだ。父の店に比べて小さく、陰気な雰囲気の店だった。
父のミロスが、生き物を家族のように大切にし、お客さんにも優しく接していたのとは反対に、ゴドロックはペットをまるで物のように扱い、客に対して高圧的な態度をとることもあった。ロニも子供ながらに、あの店主は好きになれなかった。
もし店主の言った「噂」が本当なら、あのゴドロックこそが、父の全てを奪った元凶なのか。
(ゴドロック…)
ロニは心の中でその名を繰り返した。あいつが、父を…!ゴドロックが父の優しさ、笑顔、そして父が命をかけて守ろうとしたもの全てを踏みにじった。その事実が、ロニには何よりも許せなかった。
村に戻ってからも、ロニの心はざわめき続けていた。父が陥れられたこと。自分が「行方不明」として扱われていること。
これから自分は、人間社会に再び戻れるのだろうか?もし戻れたとしても、犯罪者として追われることになるのだろうか?
ロニが塞ぎ込んでいるのを見て、パウが心配そうに寄り添ってきた。
ロニの膝の上に乗り、そのつぶらな瞳でロニの顔をじっと見つめる。何かを訴えかけるような、深く優しい瞳。言葉は話せないけれど、パウがロニの心の痛みを感じ取っているのが分かった。
パウが、そっとロニの頬に小さな手を伸ばし、撫でてくれた。その温もりが、ロニの心にじんわりと染み入る。
パウは何も言わない。ただ、ロニが悲しんでいるのを知って、傍にいてくれる。ロニが怒っているのを知って、じっと見守ってくれる。ロニが何かを決意した時、ただついてきてくれる。
そうだ。ロニにはパウがいる。そして、村のゴブリンたちがいる。もう、一人ではない。
パウの瞳を見つめ返しながら、ロニは決意した。
父を陥れたのがゴドロックだというなら、彼を問い詰めなければならない。なぜ父をそんな目に遭わせたのか。父は今どこにいるのか。全てを知っているのは、きっとあいつだ。
そして、自分が「行方不明」になっていることについても。もしかしたら、あの親戚夫婦と何か関係があるのかもしれない。
ケリェトに戻ろう。
危険な旅になるだろう。特にロニは「行方不明」になっている身だ。衛兵に見つかればどうなるか分からない。だが、このまま何もせずにいることはできなかった。
父の無念を晴らすためにも、そして、自分自身の「行方不明」の真相を知るためにも。
ケリェトまでは、この村からさらに歩いて片道五日はかかるらしい。往復で十日、滞在期間を含めればそれ以上の旅になる。
一人で行くのは危険だ。もちろんパウは一緒に行く。村のゴブリンたちも連れていくべきか?しかし、大勢では目立ちすぎる。
ロニは、旅の準備と、ケリェトでの作戦について考え始めた。ゴドロックをどうやって見つけ出すか。どう問い詰めるか。万一、反撃されたら?
やるべきことは多い。だが、ロニの心は決まっていた。
父の仇、ゴドロック。そして、自分たちの運命を変えた真実。
ロニは、パウを抱きしめ、遠い故郷、ケリェトの方角を見つめた。
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