四阿(あずまや)

斐川帙

(一)

八月の蒸し暑い熱気が、薄暗い曇天どんてんにも関わらず、肌を汗で濡らし、びちょびちょになったシャツが気分を不快にさせている。


参拝を終えて、拝殿前から離れる。

この神社へは自宅から近いというわけではないが、よく来る。

授与所に行き、新しい意匠のお守りが出てないか物色するが、目新しいものはない。


近くにあったおみくじの箱からおみくじを引く。

「影暗き月の光を頼りにて静かに辿たど野辺のべ細道ほそみち」と冒頭に書いてある。あまりいい内容のおみくじではないようだ。「今は我慢の時、身を慎んでつつましやかに暮らすこと。功を焦ると道を踏み外し路頭に迷うことになる。」と解説が続いている。あまりいい運勢ではないとわかったので、もう個々の細かい運勢の欄は見ずに、近くの用意された場所に結び付けて、その場を離れた。


本殿を囲繞する回廊を東の四つ足門から抜ける。


参道は、深い木立の中を進み、池の脇を通る。

池の水面は、周りの木々が落とす陰で薄暗く、楓が、棚引く枝ぶりを被せている。


参道は、大きく聳える欅の下を抜けたところで、巨大な石鳥居をくぐって、境内を出る。

境内を出たところで、道は、隣接する公園内のサッカー場と野球場の間を抜け、大きな駐車場に出た後、車が絶え間なく往来する幹線道路を陸橋で渡って、静かな住宅地に入る。


庭付きの戸建ての住宅が密集する住宅地は、人の往来はほとんどなく、庭木が二階建ての住宅の周囲に茂り、閑静であった。


住宅地の中を、二人分が通れそうな幅の緑道が横断する。

花水木はなみずきの並木道であった。

花水木の周囲にはいろいろな草木が植えられていた。

こんもりと丸く茂った満天星躑躅どうだんつつじがところどころにあり、槿むくげは花が咲いていて、藪蘭やぶらんが茂っていた。

花水木の幹に、幼虫、成虫合わせて十匹ほどの黄斑椿象きまだらかめむしが群がっているのを発見した。


歩いて五分ほどで、緑道は幅三メートルほどの大きな用水路に当たって、橋で、その先に続いていた。


今は八月中旬、用水路には満々とした水が、力強く流れていたが、用水路を隠すように両側から灌木が覆いかぶさっていたため、周囲からは、そこに用水路が流れているのは見えなかった。

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