day2「風鈴」
安眠にはまだ遠く
ちりん、と涼しげな音がお客さんの来訪を告げた。
わたしは眠りの底から急浮上し、戦闘態勢に入る。
川辺のこの地域は、絶えず川風が吹いている。家の戸を開けば、強い風が吹き込み、寝室の風鈴を鳴らすのだ。
枕をひっくり返し、隠していたマカロフを手に取る。こいつのせいで、わたしの夢は連夜の銃撃戦だ。
わたしは過去の夢を見ない。夢が暗示するのはいつだって不吉な未来で、組織の追手に撃ち殺されて終わる。根城を何度も変え、不注意なお客さんをことごとく返り討ちにしてもなお、死の恐怖は消えないということなのだろう。
抱き枕を掛け布団で覆い、寝室の扉のすぐ脇に控える。この部屋を選んだ理由の一つが、寝室の扉が内開きであることだ。この位置にいれば、扉が開いたとき、わたしの姿を隠してくれる。
お客さんの足音は二つ。不意討ちで殺れるのは一人。もう一人を処理できるかどうかは、わからない。銃のセーフティーを外し、深呼吸を繰り返しながら、迫りくる有事に備える。
やがて、寝室の扉が開いた。組織も今はクールビズを推奨しているらしい。白いシャツの男が二人入ってくる。その白が血に染まるとは微塵も思っていないのだろう。間抜けにも、抱き枕をわたしと誤認し、ベッドを改めようとする。その隙だらけの背中にわたしは素早く銃弾を撃ち込んだ。もう一人が振り向き、銃を向けてくるが、遅かった。わたしはその胸に一発ぶちこみ、血の花を咲かせてやった。
ベッドの上に横たわった死体を乱暴にどかす。枕をひっくり返し、マカロフと共に隠していた写真を取り上げた。
写真の中の妻と娘たちは今日も変わらず微笑んでいる。
わたしは過去の夢を見ない。彼女たちの夢を見ることはない。在りし日の彼女たちと再会できるとしたら、わたしが永遠の眠りにつくそのときだろう。
わたしは写真を胸ポケットにしまい、この根城からずらかる準備をはじめた。
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