六道輪廻

白川津 中々

◾️

あぁ、私は死んだのだ。


聞こえる読経。嗚咽。あぁ、皆私の死を悲しんでくれているのだなと、喜びを感じる。人生に未練はあるけれど、こうして惜しんでくれているのであれば、まぁ、本望だろう。


しかしそんな人生の余韻を台無しにするような事態発生。


「保険かけといてよかったぁ」


誰だ。母親だ。

思念体となった私は、どういうわけか他者の思考が流入し言語に変換。相手の感情と思いが読み取れるようになってしまったのである。しかし、母め。一際メソメソしているくせに、その実頭の中を占めているのは金勘定とは。


「もったいねぇなぁ。あいつチョロそうだったし告ってりゃワンチャンやれたのに。さっさと試しとけばよかった」


クラスの男子。まともに話した事もない小倉の野郎。何がワンチャンだ。ねぇわそんなチャンス。


「借りてた500円チャラになった。ラッキー」


田中さぁぁぁぁぁぁぁぁん……

500円程度でクラスメイトの死を喜ぶなよぉぉぉぉぉぉぉぉ……くれてやるからよぉ……500円もっと悲しんでくれよぉ……


これだけ自身の死に対し不快な思いをしなければならないとは想定外。なるほど悪霊が生まれるわけもわかる。齢17。誰からも本心から悲しまれずその生を終えるとはなんたる無情。しかしこれが人間道の浅ましさか。裏切りと欲望の世界。考えてもみれば、そこから切り離されてよかったようにも思う。これが悟りか……なんだか、意識がなくなってきた。よかった。成仏できそうだ……願わくば、次は天道へ……



……



なんだ、意識がある。

温かく、安心できる。ここが天道だろうか?


あ、なんか、なんか押し出される……嫌だ、何か知らないけどろくな事にならない予感しかない……やめろ……私はずっとここにいたいんだ……ここに……ここにいさせてくれぇ……


「……」


「おめでとうございます。産まれましたよ」


「ありがとうございます先生」


「……」


……生まれてしまった。

人生第二部、開始。

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