第十話 幽霊風(お題:突風)

 私が住む田舎町には『幽霊風』と呼ばれる風がある。

 それは、夏の夕方に吹く、肌寒い突風のことだ。蒸し暑い夕暮れ時に突然寒くなるから、幽霊風、と呼ばれるのだという。

 また、幽霊風にまつわる伝説も多い。葬式の帰りに幽霊風が吹いたら死者がついてきている、親しい人を亡くした者の周りに幽霊風が吹いた、などなど。

 今でも時々、ふらふらと町内を歩きまわる人がいる。その人達は、亡くなった人に再会しようと藁をも掴む思いで彷徨うのだ。地元の人達は事情をよく分かっているので、彼らをそっとしておく。

 私は橋の近くで商店を営んでいる。店から外を見ていると、そういう人が前を通りかかる。思い詰めた顔でずんずん道を歩く人が。中には熱中症で体調の悪そうな人や、橋の真ん中で立ち止まって欄干から川底を覗く人がいる。その時は表に出て、飲み物や食べ物を渡したり、話を聞く。皆、色々な苦労や喪失を抱えていて、どれひとつとして同じ苦しみはない。

 そして、彼らが店を出ていき、店を閉める頃。冷たい突風が吹くことがある。その風がただの冷風なのか、誰かがそばにいるのか、私には分からない。

 私が彼らにしてあげられることはほとんど無い。しかし、身体が元気な限り、店を開け続けるつもりだ。

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