九月一日、あの場所で

花絵 ユウキ

1話 『ベンチとラムネと、魚肉ソーセージ』

 夏の日。


 ユウは、今日も、決まった時間に起きて、ラムネと魚肉ソーセージを買って、そして、同じ駅前のベンチに座る。

 何度同じ事をしたか、もう忘れてしまった。


 その繰り返しに意味はなかった。


 ただ、たった一人の友だちを失って、宙に浮いた時間を埋めるため。

 気の紛らわせ方が、未だに上手く見つからないだけだった。


 夏の終わりが近づくと、音が薄れていく感覚がする。

 蝉の声も、ラムネの中で転がるビー玉の音も、一昨日より、昨日より、ずっと弱く、儚く聞こえるような気がするのだ。



 今年も、九月が、ユウの元へ訪れるだろう。

 それは、時間だけが止まったまま、またひとつ歳を重ねるということだった。


 いくら季節が過ぎようとも、ユウがあの日の中へ置き去りにされていることは、変わらなかった。

 同じ駅、同じベンチ。同じ魚肉ソーセージ。

 季節によって、手に持っている飲み物は変わるけれど、心の中の霧はいつも同じ色をしている。



 ラムネの空き瓶を捨てて、ユウは、ぽつぽつと帰路につく。

 カーテンを締め切った部屋に引きこもるまでが、ユウに残されている日課だった。


 空を切り裂く電線をぼうっと眺めた。

 飛び込んでくる厳しい光に、瞼を細める。


 ふと、そこに誰かの面影を見かけたような気がして、ユウは瞬きを繰り返した。


 けれど、そこには、やっぱり誰もいなかった――。

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