第54話 海岸で

「ねえ、あおゆき。シキに何も言わなくてよかったの?」

 海岸。夕方の強い浜風がチコとあおゆきに吹きつけている。チコはおめかし、あおゆきは戦闘フォームである。その手には香袋があった。

「ええ、いいのです。私はあやかしですから。姫様は?」

「私は寂しいよぉ。シキといたいー。海の向こう行きたいー」

「主様からの御命令です。帰還せよとの」

「どうせ、報告とかでしょ。それなら術使えばいいのに」

「……」

「あおゆき?」

「なんでしょう?」

「シキといたくないの?」

「……私はあやかしですから」

「理由に……」

「参りましょう、姫様」

「分かった……」

 あおゆきの表情から彼女の心情を、チコは汲み取るしかなかった。

 風に飛ばされたようにして二人の姿は海岸から消えた。

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