月と星屑
後悔との邂逅: 0
K大学。日本国内における私立最高峰の大学。燦燦ときらめく優秀な学生達が、一生に一度の大学生活を日々全身全霊で楽しむ学び舎。
今日はK大学の入学式だ。何千人もの新入生が一入った会場は、春だというのにすこし蒸している。汗ばんだ顔に頻繁にハンカチを当てる生徒が散見された。席に案内されてから式が始まるまでの時間、私は今までの軌跡に想いを馳せていた。
長かった。思い返さずとも苦行といえる日々だった。部活を引退してから、友達と遊んでいた時間を全て勉強に費やした。塾や図書館に通いつめ、模試の判定に一喜一憂し、「いつになったら出来るようになるの?」と心無い言葉を身内からかけられることもあった。
だがそれも、今となってはどうでもいい。最高の結果を得られたのだから。
式は滞りなく進んだ。学校長祝辞、学部長祝辞、来賓、OB会会長祝辞……わかってはいたが、大勢の恐らく偉いのであろう人からの、恐らく有難いのであろう話がひたすら続く式だった。
OB会会長の話が始まった頃には既にこの式に飽きた私は、新入生に誰か知っている人はいないかと辺りを見回し始めた。
「えー、まずは皆さま、ご入学おめでとうございます。このK大学というのは、皆さんも知ってのとおり大変すばらしい大学でして……」
塾でとりわけ仲良くなったあの子とあの子はどこにいるだろうか。私よりも集中力なかったし、寝ててもおかしくないな。
「私がこの学校に入学しました時も、今日のように春爛漫とした新たな門出にふさわしい天気で……」
あ、いたいた。手を振ると、その子もこちらに気づいて手を振り返してくれた。
「そんな素晴らしいこの大学に入学する君たちに、私が一先輩として求めるのは……」
同じ学校の人は見当たらなかった。十人ほどしか合格していないと聞いたので、いたとしても知らない人かもしれないが。私がいた学校からこの大学に受かるのなんて、私以外は相当なガリ勉か、帰宅部同然の文化部の人間くらいだろう。
そう思った瞬間。
視界の端に、とある顔を見つけた。瞬間、握りつぶされたかのように心臓が跳ね上がる。
(いやまさか……そんなはずはない)
見間違いだと思って、再度目を凝らしてその顔を見る。だがやはり、その顔はその顔ままだった。さらに最悪なことに、人違いが否定されただけでなく、隣に座っている人物も分かってしまった。その顔に、より強い嫌悪感と緊張を感じた。
(なんで、アイツらがここにいるのよ……)
「弱きを助け強きを挫く、品行方正で健全な学生になってもらいたい。という事です」
根木萌香と仁木昇平。私──平井カナが高校でいじめていた二人が、同じ大学に入学してきた。
134340 〜ひとりぼっちの惑星たち〜 裏窓秋 @BanSoTan
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