片想いしているクラスで1番可愛い無口な女の子からいきなり告白されました

八木崎

序章

クラスで一番の美少女は、誰にもなびかない 前半





「如月さんってさ、変わってるよね?」


「そうそう。なんかあたしたちとは違うっていうかさ」


「あっ、わかるわかる。ちょっと近寄りにくいし、話掛けても反応が薄いよね」


「あははっ、そんな感じするするー。やっぱそうだよねー」


 クラスメイトの女の子から、何気ない口調で語られるその言葉。それが彼女―――如月心奏きさらぎかなでさんが受ける、周りからの評価である。


 そしてその言葉は悪口でも何でもなく、ただの事実である。だって、その言葉通り……如月さんは変わった女の子だから。


 周りの流行に決して乗らず、空気もあまり読まない。人に懐かず、誰にもなびかず、人付き合いを嫌い、絶対に群れたりはしない。まさに自由気ままで孤高の人だと思う。


 そしてそんな事を周りから言われてしまっているけど、如月さんはそれを聞いても、別に何とも思っていない。孤独だとしても、それを完全に受け入れてしまっている。


 彼女はいつも一人でいて、一人きりで本を読むか、音楽を聴いていたり、勉強をしている。自分から進んで周りに溶け込む様な真似は、決してする事はない。


 そんな人嫌いを公言してはばからない如月さんだけど、それに反して彼女はクラスの中で一番可愛いと、同じクラスの男子の中ではもっぱらの評判だ。


 もっと言えば、学内においても一番なのかもしれない。実際、主観的に……じゃなくて、客観的に見ても、彼女が美少女であるというのは、誰もが認めざるを得ないと思う。


 如月さんはほとんど無表情で笑顔は見せないけど、それでも十分に過ぎるほどに彼女は整った容姿をしている。


 横幅が広く、切れ長の目。鼻筋も通って、薄い唇。スタイルだって悪くないし、肌は白く、肩に掛かる程度に伸びる長い髪は、明るめで目立つ栗色をしている。


 人によっては切れ目の印象から、顔が怖いと言われる事があるけど……僕が一番好きだと思うのはその目である。


 一見すると冷たい印象を与える、その鋭い目つき。まるで刃物のようなそのクールな瞳に、僕は一目見た時から虜となって心を奪われた。


 そして……それを感じているのはきっと、僕だけじゃないはずだ。このクラスにいる男子のほとんどが、彼女に目を奪われて、彼女を目で追っている。


 いや、もしかしたら女子ですらも、彼女に惹きつけられているかもしれない。それぐらい、彼女は十分に綺麗で可憐なのだ。


 ……だからこそ、如月さんはみんなからすると、触れにくい存在に見えてしまう。まるで彼女は、尖ったナイフの様なものである。


 決して自分から誰かと関わろうとしない彼女。孤高の存在。そんな彼女を、他のクラスメイト達は遠巻きに眺めるだけだった。


 そして僕―――立花蓮たちばなれん―――も、もちろん例外じゃない。いつか、彼女と話したい。彼女と関わってみたい……とは思ってはいるものの、臆病でテンプレ的な陰キャの僕には、彼女に話し掛ける勇気なんて一度たりともなかった。


 だけど……そんな如月さんに、僕はずっと片想いをしていた。高校に入学して、彼女と同じクラスになって……彼女とまともに話した事は一度もないけれども、それでも僕は彼女が好きだと思う。僕の人生において、初めて抱いた恋心。いわゆる、初恋というやつだ。


 別に、僕と如月さんとの間で、特別な何かがあった訳じゃない。ただ、単純に……僕が彼女に見惚れて、彼女を好きになっただけ。それだけの事なのだ。


 だけど、だからといって僕に何が出来る訳でもない。結局、僕はこの1年近く、まともに彼女と話すことが出来ずにいた。


 そして時は流れて……僕が進級して高校2年生となり、少し前まで綺麗に花開いていた桜の花が、完全に散った4月の終わり頃。


 僕は幸いにも、2年生に進級しても如月さんと同じクラスだった。けど僕は相変わらず、遠くから彼女を眺めるだけの毎日を送っていた。


 如月さんに話し掛ける事はおろか、近付く事すら出来ずにいた。そして彼女も進級してからも相変わらず、クラスには馴染まずに孤立していて、誰とも馴れ合おうとしなかった。


 そんなある日の昼休み。僕は窓際にある自分の席に座りながら、窓の外に広がる景色を眺めていた。


 別に何かが気になって見ていた訳じゃない。何もする事が無かったので、ただ何となくぼーっと、外の景色を眺めてただけ。


 そうした無駄な時間を過ごしていた僕だったけど……ふと、誰かが僕の右肩を軽く叩いた。というか、指で突いた様な、そんな感触がした。


「ん?」


 ともすれば、気づきそうにない程に弱く叩かれたそれに、僕が気づいて振り返ってみると、そこにはなんと……。


「ねぇ」


 僕が片想いをしている彼女が、如月さんがそこに立っていて、僕の事を見つめていたのだ。


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