第6話 “家賃が払えません”と来店する主婦
第6話 “家賃が払えません”と来店する主婦
「す、すみません課長!来店カウンターに……ちょっと変わった方が……!」
新入社員の**西村拓也(にしむら たくや)**は、明らかに動揺した様子で課長の元へ駆け込んできた。
入社1年目、まだ慣れないスーツに緊張の色が抜けない西村。配属先はなごみ不動産の管理部だ。
「落ち着いて、西村くん。何があったの?」
課長の**中原裕一(なかはら ゆういち)**は、管理部のナンバー2で頼れる男。41歳、部下からの信頼も厚い。
「お客様が……“家賃が払えない”って……堂々と……!」
「わかった、対応は僕が引き継ぐよ」
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カウンターにいたのは、疲れた表情を浮かべた40代半ばの女性。目元のメイクは薄れ、手には古びたレシートが数枚。
「すみません。突然なんですが……来月の家賃、どうしても払えそうにないんです」
「中原と申します。管理部の課長をしています。どういったご事情か、お聞かせ願えますか?」
女性は少し俯いて、話し始めた。
「夫と別居して2ヶ月になります。子どもが2人いて、私がパートでなんとかやってたんですが、先月からシフトが減らされて……。カードローンにも手を出したけど、もう限界で」
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中原は静かに頷きながら、一つひとつ確認していく。
「今のご契約内容だと、家賃支払いは毎月25日までですね。弊社は地域に根差した店舗ですから、遅れたからってすぐに出て行ってください、なんて言いませんからご安心ください。ちゃんと支払う意思のある方には、遅れている分は分割など、事情がわかれば対応できることがあります」
「えっ……そうなんですか?」
「もちろん、無限に待てるわけではありません。でも、“払えません”と正直に来てくださったのは大きいです。黙って滞納する人が多いですからね」
中原は資料を開きながら、家賃支払い猶予の制度や、自治体の支援制度、家計相談窓口の情報などを丁寧に説明していく。
「……こんなに、ちゃんと話を聞いてくれると思いませんでした」
「困ったときこそ、話してもらうことが大事なんです。私たちも“貸して終わり”ではないですから」
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一連のやりとりを、少し離れた席で見ていた西村の目が変わった。
(こんなふうに、相手の状況を汲んで動ける人になりたい)
帰り際、女性が中原に頭を下げる。
「少しだけ……もう少しだけ、がんばってみます。ありがとうございました」
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その後、西村はぽつりとつぶやいた。
「課長、かっこよかったです」
「いやいや、僕も昔はあたふたしてたよ。大事なのは、“困ってる人が困らないようにする”っていう視点だよ」
中原はそう言って、柔らかく笑った。
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さて次回、第7話は、どんなお客様とのエピソードがあるのでしょうか?更新まで楽しみにしていてください。
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