第5話「制服リフォームは魔法のドレス」
「文化祭実行委員、立候補する人〜」
担任の声が教室に響いた。いつもなら絶対に手を挙げない。目立ちたくないし、責任も負いたくない。
でも、今日は違った。
スウィルカールで巻いた髪、ポアヒールで整えた肌、キラリネージュで描いた瞳。少しずつ変わってきた自分を、もっと試してみたい気持ちが湧いていた。
「あの……」
小さく手を挙げた。クラス中の視線が集まる。
「おっ、蒼月か。珍しいな」
「衣装係なら……やってみたいです」
自分でも驚くほど、はっきりとした声が出た。
「いいね!他に立候補者は?」
結局、私ともう一人の女子で衣装係に決まった。放課後の実行委員会で、各クラスの出し物が発表される。うちのクラスは「不思議の国のアリス」の劇に決定。
衣装のイメージを考えながら部室に向かうと、みんなが笑顔で迎えてくれた。
「聞いたよ!衣装係になったんだって?」
ルカが嬉しそうに言う。
「うん。でも、裁縫とか苦手で……」
「大丈夫、そのための魔法があるから」
アリサ先輩が、不思議な形をしたハサミを取り出した。刃の部分が虹色に輝いていて、持ち手には小さなクリスタルがついている。
「これは?」
「マジックシザーズ。布を切るだけじゃなく、想いを形にする道具」
ミオ先輩も、キラキラした糸と針を見せてくれた。
「こっちはドリームニードル。縫い目に魔法を込められるの」
「今日は特別講座!ファブリック・ドリームを教えてあげる」
ルカが大きな布を広げた。ただの白い布に見えるけど、よく見ると表面がかすかに光っている。
「これ、魔法の布。イメージした通りの模様や色が浮かび上がるの」
「本当に?」
「やってみせるね」
ルカが布に手を当てて、目を閉じた。
「ファブリック・ドリーム、想いを纏わせて」
すると、白い布に少しずつ色が浮かび上がってきた。淡いブルーから始まり、花柄が現れ、レースのような模様が広がっていく。
「すごい……」
「でも、これだけじゃ服にはならない。ここからが本番」
アリサ先輩がマジックシザーズを手に取り、布に向かった。
「着る人の気持ちを考えながら切ると、最適な形になるの」
シャキン、シャキンと軽快な音を立てて、布が切られていく。ただ真っ直ぐ切っているだけに見えるのに、切り離された布は自然と服の形になっていった。
「魔法って、本当に何でもできるんだ」
「違うよ」
ミオ先輩が優しく訂正した。
「魔法は、あなたの想いを形にするお手伝いをするだけ。大事なのは、誰かを喜ばせたいって気持ち」
なるほど、と思った。確かに、今まで習った魔法も全部そうだった。自分の願いや想いがあって、初めて効果を発揮する。
「じゃあ、ひよりちゃんも挑戦してみる?」
渡されたのは、学校の制服と同じ紺色の布。
「まずは自分の制服から始めましょう。小さなアレンジでいいから」
制服か……。
今まで、ただの決まりきった服としか思っていなかった。でも、よく考えれば毎日着るもの。これを少しでも好きになれたら、毎日がもっと楽しくなるかもしれない。
「どんな風にしたい?」
「えっと……」
考え込む。派手すぎても校則違反になる。でも、地味すぎても意味がない。
「そうだ、リボンを少し大きくしたい」
首元の小さなリボン。いつも適当に結んでいたけど、これがもっと可愛かったら。
「いいアイデア!」
布を手に取り、目を閉じる。頭の中で、理想のリボンをイメージする。少し大きめで、結び目がふんわりしていて、風に揺れるような軽やかさ。
「ファブリック・ドリーム、想いを纏わせて」
呪文を唱えると、手の中の布が温かくなった。目を開けると、紺色の布に光沢のある糸が浮かび上がっていく。
「上手!」
次は、マジックシザーズで形を整える。不思議なことに、ハサミが勝手に動いているような感覚。私の手を導いて、最適な形に切り取っていく。
最後に、ドリームニードルで縫い合わせる。針に糸を通すのも苦手な私だったのに、魔法の針は滑るように布を縫っていった。
「できた!」
完成したリボンを見て、思わず声が出た。想像以上に可愛い仕上がり。適度なハリがあって、でも柔らかさも残っている。
「早速つけてみて」
鏡の前で、いつものリボンと付け替える。
「わぁ……」
たったこれだけで、制服の印象がガラッと変わった。地味だった紺色の制服が、急に愛おしく見える。
「だって私は、"私を好きになる"ために生きてるんだ」
ふと、そんな言葉が口から出た。
「その通り!」
みんなが拍手してくれた。そうだ、これは誰かのためじゃない。自分のための魔法。
その後、文化祭の衣装デザインにも挑戦した。アリスのドレス、帽子屋の衣装、チェシャ猫の耳。どれも、着る人の気持ちを考えながらデザインしていく。
「クラスのみんな、喜んでくれるかな」
「絶対喜ぶよ。だって、ひよりちゃんの想いがこもってるもの」
家に帰ってからも、アイデアスケッチが止まらなかった。こんなに何かに夢中になったのは、いつぶりだろう。
翌日、新しいリボンをつけて登校すると、すぐに気づいてもらえた。
「ひより、リボン変えた?可愛い!」
「どこで買ったの?」
「自分で作ったんだ」と言うと、みんな驚いていた。
実行委員会で、衣装のデザイン案を発表する時も、以前の私なら声が震えていただろう。でも、今は違う。
「アリスは、夢の中でどんどん成長していく女の子です。だから、衣装も場面ごとに少しずつ変化するようにしたいんです」
スケッチを見せながら、自信を持って説明できた。みんな真剣に聞いてくれて、「いいね!」「楽しみ!」と言ってもらえた。
放課後、部室でファブリック・ドリームの練習を続ける。失敗することもある。イメージ通りにいかないこともある。でも、それも含めて楽しかった。
「ひよりちゃん、すごく楽しそう」
ルカが微笑む。
「うん。こんなに創作が楽しいなんて、知らなかった」
「それは、自分を表現する喜びを知ったから」
アリサ先輩の言葉に、はっとした。
そうか。今まで私は、自分を表現することを避けてきた。目立たないように、批判されないように、殻に閉じこもっていた。
でも、魔法が教えてくれた。表現することは、怖いことじゃない。むしろ、生きている実感そのものだって。
文化祭まであと三週間。やることは山積みだ。でも、不安より期待の方が大きい。
「私の作った衣装で、みんなが輝く姿を見たい」
その想いを胸に、今日も魔法の針を動かす。
一針一針に、想いを込めて。
きっと、最高の文化祭になる。そんな予感がした。
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