第3話 鍛えた結果
「ふー、すっきり。やっぱり冷やしながらに限るな」
海に潜りながら俺は高熱になった身体を冷やした。
先程と同じように体内の魔力回路に魔力を注ぎ込み、それを前進にくまなく回した。結果先程よりも肉体は高温になり、座っていた倒木に火がついた。
火はやはり純粋な魔力によって燃えることが出来なくなり、すぐに消えた訳だが、肉体の熱は中々冷えなかった。
なので俺は海に飛び込んで冷やしたわけだ。
ここまでで既に俺はこの肉体がとても良いものを持っていることに気がついていた。
反応が非常に早く、しかも最大の状態になりやすいのである。
前世の時より優れた肉体に思わず様々なビジョンを予測したが、すぐに自分のやるべき事を思い出して身体の水を払う。
先程水の中でとある物を見つけた。
空き瓶の類だったのだが、中に紙が入っている。
それは拙い文字で子供が書いたものだと思ったのだが、その最後に年月と名前が書かれていた。
『1401年 9.21 メアリー・メリー』
……1401?嘘だろう?
ここから読み取れるのは、俺が生きていた時代から既に千年ほど経過しているという事だった。
なんなら、これを書いたタイミングが直近出ない可能性もある。
にしても流石に千年という年月はさすがに驚いたな。てっきり100年程度かと思っていたのだけれど。
……千年か……。
きっと俺の時代とはまるで違う戦術やら魔法やらが出来上がっていることだろう。
……楽しみが増えたな。
とりあえず俺は先程と同じように魔力を流して、肉体を変化させる事にした。目下の目標はもうすぐ達成されそうになっていた。
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────1週間後。
流れ着いた鏡を拾い上げ、それに写った己の身体を見る。
あの太ったボンレスハムのような肉体は跡形もなく消え去り、代わりにバキバキに鍛えられた肉体がそこにはあった。
この数日間で肉体は更なる高みへと至っていた。
身体から産み出される結晶を内部で折り重ね、それを筋肉のように束ねていったのだ。
その結果見た目はスラッとしているが、その筋肉量は魔物を遥かに凌ぐものとなっていた。
が、引き換えに髪の毛が結晶になってしまった。
元々黒かった場所にクリスタルのようなものが混ざりこみ、変な髪色になってしまった。
まぁ全部髪の毛が消えなかっただけマシだと思いたい。
余談だが全身の毛は髪以外消えた。
おかけで少し肌寒い。
遠くの方に自分を警戒して近づいて来ないサーペントタイガーが見えた。
俺は己の肉体をテストする意味も兼ねて、サーペントタイガーへの物理攻撃を開始した。
ズドン!!
軽く地面を蹴っただけで肉体は急激に加速し、サーペントタイガーを貫通しながら隣の森へと突っ込んでしまった。
やはり予想以上だ。
前世の頃より明らかに強くなるスピードが違う。
吹っ飛びながら俺はそんなことを考えていた。
すると目の前に巨大な遺跡が出現した。
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遺跡はダンジョンと呼ばれるもので、中からは魔物の気配を感じとれる。
と言っても今の自分ならば既に余裕な事は明確だったので、俺は腕試しも兼ねてダンジョンの中へと足を進めるのであった。
すぐに蜘蛛型の魔物『スパイドラ』が現れた。
黒と赤の蜘蛛で、サイズは握り拳ほど。
とはいえ俺はまだ魔法をほぼ使っていない。
久しぶりの戦闘に僅かに心躍らせながら、俺は手の真ん中に魔力を集める。
『……フィスト』
詠唱を全て破棄し、さらに魔法の名前すら呼ばないことで威力を調整。そして拳の中に貯めた魔力をそのまま放つ。
たったこれだけの魔法で、『スパイドラ』は粉微塵になって魔石を残して消滅した。
やはりではあるが、肉体の反応が良すぎる。
人に向けて使ったものなら、まず間違いなく即死させてしまうだろう。
すぐに音を聞きつけた『スパイドラ』の群れがこちらに突進してくる。
俺は執事が残していった剣を手に取り、それに『愚者』の魔力を薄く纏わせた。
「キュイイイイイイ!!!」
飛びかかってくる『スパイドラ』の動きを払い除けるようにして、俺は剣を振り回す。
剣が空をきる度に衝撃波が産み出され、ただ振り回しているだけなのに『スパイドラ』はぐちゃぐちゃになって消えていった。
あっという間に蜘蛛は消え、代わりとばかりの小鬼『ゴブリン』が現れる。
緑色の小柄な鬼は棍棒やら、槍やらを手に取りこちらに向けて突進してくる。
あまりにも無策な突進を俺は避けるのではなく、手で止める。
剣を持たない方の手でゴブリンの頭をグッと掴み、そして砕く。
真緑の液体がびちゃびちゃ飛び散り、それを見た他のゴブリンが怒ったように雄叫びをあげる。
がそんな悠長な動きを許す俺ではない。
頭が無くなり、崩れ始めたゴブリンの肉体を蹴り飛ばして目の前のゴブリン共にぶつける。
そしてそれに驚いたゴブリンを流れるように剣で斬りつける。
一瞬だった。
魔法使いとは何なのかと言われそうだ。
「……にしても弱いな。前世なら睨んだだけで死んでたのにな」
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しばらく進むと、突然巨大な牛と人の集合生物が現れる。
『ミノタウロス』
牛の獰猛さを人の肉体で補強した筋肉質な魔物だ。
ミノタウロスは俺を見るなり
「ブゴォォォォォォォオ!!!!」
叫び、そして手を地面について走り出した。
すると角が光り始める。
おお、スキル。魔物が使う魔法のようなものじゃないか!
先程までのヤツらとは異なると判断し、俺は剣を逆手に持ちかえる。
そして避けることなくその突進を受け止めた。
バギギィィイインン!!
鋭く、金属が悲鳴をあげる音がして俺の体が軽く浮く。
しかしすぐにその突進は速度を落とし、やがて止まった。
「ブモォォオォオ?!」
困惑したミノタウロスに、俺は「良い突進だったよ」と伝えるとそのまま体を捻って地面に叩きつける。
ジャーマンスープレックスとかいう技だったかな?
格闘系の魔法使いが好んで使っていたはずだ。
肉体の重さをもろに首に受けたミノタウロスは悲鳴すらあげれず、そのまま息絶えた。
それから俺はミノタウロスの心臓辺りに手を突っ込み、魔石を抜き取る。
ミノタウロスの魔石には肉体を強くする効果がある。
軽く手で遊び、それから飲みこんだ。
すると驚いた事にドドドドドという音を立ててミノタウロスが複数体現れた。
それは驚くべきことだ。
ミノタウロスは基本いっぴきでしか存在しないはずだったからである。
「面白くなってきたな」
既にそこまで広いとはいえないダンジョンの部屋に、所狭しとミノタウロスが立ち並ぶ。
「ブモモォォオオオ!!!」
「ブゴォォォォォォォ!!!!」
「モォォオオオオ!!!」
「グゴォオォォオ!!!」
いいじゃないか、いいじゃないか。
良い声で叫ぶ彼らに俺のテンションも上がり始めた。
「オラァァァかかって来やがれ!!」
そう言い残すと、俺は剣を逆手から貫くような型に持ち替え、そして彼等に向けて飛びかかる。
そうしてしばらくの後、動かなくなったミノタウロスの角を何本か剥ぎ取り、俺はさらに奥へと進むことにしたのであった。
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一応毎日投稿したいです。
夜0時0分辺りに出るので、寝る前に読んでくれたら幸いです。
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