転生賢者は、悪役貴族と蔑まれてもTUEEEE『杖』を作るのにしか興味は無い

ちょしゃ猫(旧ペンネーム皆月)

第0話 プロローグ

 賢者エレボスと呼ばれた俺は、転生魔法を起動し、次の人生を始めることにした。

 目的はただ一つ───杖を作る為だ。


 ……何を言っているのかと思う人もいるだろう。

 そもそも賢者というのは魔法使いの最上位的立ち位置であり、実際俺も杖に関してはゴミの山になるほど持っている。


 じゃあなぜ杖を作るために転生をするのか?

 ……杖が欲しいからだ。

 正確には、俺の魔力と魔法に耐えれる杖が欲しいと言うべきかもな。


 賢者と呼ばれた俺の魔法は凡夫な奴らとは訳が違う。

 ただの杖ごときじゃ、魔法すら打てない。

 たった一度、魔力を流しただけで砕け散ってしまう。


 その為俺は未だに杖を持って魔法を使った試しがない。

 じゃあ魔法をどうやって発動させているのか?それはもちろん、無詠唱で空に投影してはなっている。

 さすがに火力は落ちるが、神獣程度ならワンパンすることができる。


 それで良いのでは?

 ……良くない。

 ぜんぜんよくないっ!


 魔法使いの端くれとして生まれた以上、杖に魔石を装備して、多種多様な魔法を撃ちたい。

 なのにだ。

 叶わないんだ、俺の魔法、俺の魔力が強すぎてそんなちっぽけなことですらかなわないんだぞ?


 伝説の杖ですら俺の魔法に耐えれない。

 耐久力だけが取り柄と言われた杖すら、木っ端微塵さ。


 そんなある時、俺は思いついた。

 自分で作ればいいじゃないか。とね。


 だが、思いついた時が遅すぎた。

 俺はもう歳で、長くなかった。

 杖を作るほどの集中力もなければ、体力もなかった。


 悔しくて仕方ないので俺は、未来の自分に託すことにした。


『転生魔法』


 記憶を引き継いだ状態で未来に魂を送り出す魔法。

 そんなものを知り合いの魔女が見つけてくれた。


 それを利用して俺は、今度こそ自分の魔法に耐えれる杖を探してみせる。

 否、作ってみせる。


 俺は全ての資産を頼れる……かはさておき、うちの伝説系ゴーレムに託して転生魔法を起動させた。


 星が瞬き、軌跡が渦を巻く中で飲み込まれるように意識が消えていく。


「……さて、あとは未来の俺。託したぞ」



 _________________________



「……託したんだがなあ……」


 俺は転生した。

 転生魔法はしっかりと機能したし、転生としてみれば大成功だろう。

 問題は、俺が目を覚ました時点でこの体が15歳になっていたということだろうか。


 しかもだ。

 鏡に映った姿は、あまり汚い言葉を使いたくはないのだが……。


 デブだった。

 ボンレスハムといえばいいのだろうか?

 そしてべったりとした汗がこびりつき、黒光りする髪の毛。


 あと、顔が悪役顔。


 まあそこはどうでもいい。

 問題は魔法を使うための心臓とでもいうべき『原石』が全く磨かれていなかったのだ。

 心臓が磨かれていないということは、当然魔法はろくに扱えない。

 そして、体に流れる魔力の通り道である魔力回路もまるで汚れて、つかいものにならないのである。


 ……さすがの俺も驚いた。

 こんな肉体で、生きていけるわけがない。

 戦いにおいて的ぐらいにしかならなさそうなこいつが、どうやって今まで生きてこれたのか。


 だが、その疑問はすぐに解消された。


「……ローグお坊ちゃま。朝でございます……今日こそは、皆でそろってお食事をと、公爵様がお呼びでございます」


 声は老人の物だった。

 ……なるはど、この体の名はローグというのか。

 それに公爵と来たか。


 かなりの身分、それならばこのデブ野郎でも生きていけるか。

 なるほどな。


「わかった、すぐに行く。伝えに来てくれてありがとう」


 ひとまず感謝しよう。

 そう思って挨拶をしたのだが……。


「ろ、ローグ様が感謝を!!!!!!!!??????」


 感謝しただけで、こんなに驚かれるってどういう人間だったのかなんとなく想像がつくのだが……。


 ……、ひとまずこれ以上ぼろを出さないようにしたほうがよさそうだ。


 _________________________


「ふん、珍しいな。でk……ローグがここに来るとは」


 服を着替えた(太っていてべっとりしていて着替えるのすら地獄だったのは内緒)あと、おれは執事に案内されて食事場に到着した。


 ここまで来るだけで、すでに息が切れる。

 どれだけ鍛えていないのだと、汗だくになりながら俺はこの体の持ち主を恨んだ。


「はあ、はあ、……ローグ、お待たせしま」


 違う、たぶんだがこいつはそんなしゃべり方をしない。


「……待たせたな」


 だめだ、結局前世の口調に引きずられてしまう。

 そもそも、前世の俺賢者エレボスは貴族どもとはあまり仲良くはなかったために解像度が著しく低い。


 ふと周りを見ると、金銀の服を着たおっさんやら、赤だらけの服のおばさんなどが唖然とした顔で、こちらを見ていた。

 誰だか知らんが、そんなアホずらでこちらを見るな。

 アホが移る。


 暫く気まずい空気が流れた後、最初に声をかけてきた男がしゃべりだした。


「ふん、まあいい。ローグ、久しぶりに顔を見たが、相変わらずたるんだ顔だな。聞いているぞ貴様の学院での悪評の数々を」


 悪評?

 まああるだろうな、こんな見るからにやばそうな見た目だしな。


「何人買った?女だ」


 ……思ってた倍やばいかもしれない。


「何人再起不能にした?私が聞いていた限りでは、32人と聞いていたのだが」


 訂正、こいつはやばいどころじゃない。

 終わっているかもしれない。


「何人はらm」


「あなた、食事中よ。そんな汚らしい話はしないでちょうだい!!」


「……金でもみ消せる量にも限りはある。もう少し自重しろ」


 なるほどこいつらも割と終わっているのかもな。

 ……嗚呼、なんとも最悪な転生となった気がして仕方がない。


 俺はそれ以上こいつらと会話する気も起きなくなり、軽くスープを口にだけして、その場を去ろうとして……。


 ぐわん、と世界が揺れた。


「……少しは自重しろ。すくなくとも、夏季休暇のあいだはな」


 体の自由が利かなくなる直前、そう男は言った。


 なるほどな、何か理由があって俺が邪魔というわけか。

 まあいい俺としてもこんなゴミどもと一緒の場所で過ごしたくはない。

 ……そういうわけで、おれは無抵抗の体ごと馬車に乗せられてどこかへと連れ去られるのであった。

 ちなみに当たり前であるが、この程度で俺の意識は飛ばない。賢者を舐めるなよ。

 _________________________



「……で、こんな場所か」


 俺が送られたのはこじんまりとした、海の見える小屋だった。

 おそらく、無人島か何かだろうか?


 周りを見ても、お付きの人は一人しか見当たらない。

 ……なんとなく、悲しい結論が頭の中を流れる。


「厄介払い、もっと言えば……ここで始末する気……まあさすがにないか?」


 ないとは言い切れない気がした。

 とはいえ、俺はみすみすやられるわけではない。


 だがさすがに、この体じゃギリギリすぎる。

 まずはここで自分を鍛える。

 そして杖を作るための場所を作る。


 ひとまず自分にできることがどれだけあるのかを、確かめよう。


 せっかく転生魔法で手に入れた可能性なのだから、絶対に無駄にしないために、な。


「……ローグお坊ちゃま。今までお疲れ様でした。くふふふ、残念ですねぇ!!」


 突然お付の執事が笑いだした。

 豹変っぷりに思わず笑いたくなるほどの清々しい裏切りだった。

 だが執事は俺が黙っている事を唖然としているのだと捉えたのだろう。

 俺の太い首に片手の剣を押し付け、それから意気揚々と語り出した。


「お前に振り回されるのはもううんざりですぞ!!ワシのことを何度バカにした?ァ?お前はワシのことを”使えないジジイ”だとか、”役たたずの老害”だとか散々言ってくれたなぁ?!腹が立って仕方なかったのですぞ?……ふん、こんな駄肉のガキに舐められたものです。……ですが許しましょう貴方はもう終わりなのですからね!!!!!」


 すっごい怨嗟のこもった声で言うね。

 いや多分本当に心の底からそう思ったんだろうなぁ、まぁわかるけども。

 転生してほんの僅かにコイツの情報を聞いただけでも胸焼けしそうな感じだったのに、こいつと何年も一緒にいたのだとしたら……。


 そうしてしばらく怨嗟のこもった言葉を叫んだ後、老人の執事は剣を地面に置いた。


「ローグお坊ちゃま、最後になりますがお前は家から見捨てられました。残念ですなぁ!もう二度とここには助けなど来ませぬ。ここは国からかなり離れた絶海の孤島!……ここには魔物も山ほどいる島ですのできっとお前は1日も持たぬでしょうが、まぁせいぜい自分がした事の数々を悔いながら死ね!!……さらばです。」


 そうして執事はそこから消えた。

 おそらく転移魔法だろう。


 1人取り残された俺は置いていった剣を手に取り、そして……。


「まぁ死ぬ事は無いのだがね。にしても良いことを聞いたぞ?絶海の孤島、魔物が山ほど……ふふふ、ここは良いに出来るぞ?」


 置いていかれたことなど心底どうでもいい。

 むしろ人がいない事がほぼ約束された島を簡単に手に入れれた事の方が大きい。

 というのも俺の転生の理由である杖を作るという行為には、工房が必要不可欠なのだ。


『工房』


 それは杖を作る為の施設。まぁ前世に杖を作るやつは居なかったので、俺が作ったものなのだが。

 基本的に杖を作るには、魔物の素材や鉱石、骨などが必要だ。

 そしてそれらを錬成、つまりは形を変形させたり、溶かしたり、大鍋で煮詰めたりする必要がある。

 それらをした後、その基礎となるものに魔導回路を引く必要があるのだが、まぁその作業が死ぬ程危ない。


 ……爆発するのだ。

 そもそも前世の時点で杖職人がいなかった理由の一つに、杖に魔導回路を引くのが危険すぎるというのが挙げられる。

 ミリ単位の調整を施さないと、杖としての役目を果たせず、場合によっては命を落としかねない。

 その割に作れる杖はそこら辺の雑魚魔物を倒して手に入れた杖の方が強いとなれば、誰もつくらないだろうよ。


 ……俺みたいな物好き以外はな。


 とりあえずこの島で杖作りの基本を試すとしようかな。

 時間はたっぷりあるし、人の邪魔も入らなそうだしな。


 とりあえず俺はパッツパツの服を脱ぎ捨て、太りきった腹を叩く。


 この邪魔な脂肪を一旦無くし、それから魔力を高める。


 ひとまずそれから始めるか。

 俺は心臓に手を置き、とある祝詞を唱える。


「『告げよ汝の原石の名をアクト』」


 ドクン、と心臓が早く鼓動する。

 そして手の中に一欠片の結晶が握られていた。


 その石には文字が刻まれていた。


『愚者』


 なんとも懐かしい物だな。

 まさか、ね。






 _________________________


 続きが気になるなら是非、☆を。

 ♡もコメントも好きにおなしゃす!


 この物語は杖を作りたい元賢者様の物語です。

 杖を作るために魔物を倒して、素材を手に入れ、危険地帯に入って素材をかっぱらう。

 そして杖を作る。


 ……まぁその杖は基本失敗作ではあるのですけど、その杖を他の人が使った結果……?


 まぁそんな作品でございますね。

 ゆるりと楽しんでいただけたら幸いでござんすよ。






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