私立海南高女付属『すみれ特戦隊(改稿電子版)』

羅門祐人

第1章 第1話 昭和一七年のある日

★初出……DOMUノベルズ(コアラブックス)

この作品は初出の原稿を元にして、全面的な改稿を施して電子版としたものです。なのでノベルズ版とはかなり違っている部分もあります。


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 ここは絶海の孤島。

 でも、無人島じゃないよ?


 周囲三六〇度。

 ぐるりぐるりと、見渡すばかりの大海原。


 そんな言葉がぴったり。

 赤道から少しばかり北にいった、太平洋のド真ん中なのだ。


 ……って。


 くわしく説明すれば、いくらでもできるんだけど。

 どうでもいいことなので省略する(オイ、こら!)。


 ともかくこの島……。

 海南島は、純然たる日本国外の私有地なのだ。


 ちなみに海南島は、『かいなんとう』と読む。

 おなじ漢字の中国にある島は、ハイナン島。


 だから、まったくの別物。


 名前の由来は、海南工業株式会社という大日本帝国のいち私企業の私有地だから。

 とある外国の国家から、金にモノを言わせて買い取ったんだって。


 だから、断じて植民地ではない。


 さらに言えば、海南工業の試作品を開発・実験するために買収した、海外商業活動の支援拠点、しかもである。


 いちおう、表むきの理由はある。

 日本本土では無理な、高温多湿の実験環境を得るためだそうな。


 だが実際は違う。


 海南工業が第一次大戦後。

 ドサクサにまぎれて、国際市場に乗りだすための布石だったらしい。


 営利企業の先行投資ならば、あの時代では無理からぬ。

 とはいえ、いささか先走りしすぎた感もある(だからワンマン社長は……げふんげふん)。


 それはともかく……。


 去年の暮に始まった太平洋戦争。

 四ヵ月たった現在も、大日本帝国陸海軍による破竹の進撃はおさまっていない。


 そう、いまは一九四三年。

 太平洋戦争の真っ只中なのだ。


 真珠湾奇襲に始まり、グアムとフィリピンを怒涛のごとく攻め、現在は蘭領東インド・香港・仏印・シンガポールにまで翼を広げている。


 当然ながら。


 海南島も、それらにすっぽりと取り囲まれ、日本の南方戦略に組みこまれてしまった(これ史実とおんなじやな……って、どの史実? そう、)。


 太平洋戦争が始まってしまった現在。

 ふつうなら、どーすりゃいいんじゃってなる所だが。


 そこはワンマン社長。

 軍と密談して、新たな使い道を見つけてしまった。


 それはそれでいいのだが。


 問題は、太平洋戦争が始まったっていうのに、島にことだ。


 高等女学校。

 そう、うら若き一三歳から一七歳、女生徒だけの学校。


 まったく……。

 なに考えてるんだろうね。



      ※※※



「あー。本日着任しました、海軍総司令部所属・特務実験艦隊少尉の安達原広志あだちがはらひろしで……えっ、ええーーっ!!」


 白の実験艦隊第二種軍装もまぶしい安達原。


 おごそかに自己紹介を始めたっていうのに。

 突然、のけぞるように二三歩あと退りした。


 目の前に女学生がいる。


 いや、


 本来なら赴任先は、屈強かつむさ苦しい野郎どものはず。

 部下となる特務艦隊兵士たち(もち男だけ)が、芋の煮っころがしみたく、鬱陶しく雑然と整列していなければならないはずなのに……。


 安達原、目深に帽子をかぶっていた。

 そのため前が見えなかった。


 それが不幸の始まりだった。


 海南工業傘下の海南造船所に、軍務士官として配属されたはず……。

 今朝、海軍の輸送機で運ばれ、この島に赴任してきたばかりだ(てことは、島には滑走路もあるわけだ)。


 開戦という特殊事情のため、海南島は戦時徴集にかけられ、島には特務実験艦隊の臨時基地が設営されることになった。


 これはすべて海南工業が、海軍から新兵器開発を命じられた結果であり、ここにも戦争の影が忍びよってきたわけだ(という表むきの言いわけを社長がしてた)。


 当然ながら安達原。

 海南の秘密兵器開発スタッフやら所属兵士を紹介されると思ってた。


 そのつもりで、現地の最高責任者である、特務実験艦隊少将の四方山善哉よもやまぜんざい司令長官の後についてきたのだ。


 悪いことに安達原は、江田島の海軍兵学校を卒業したばかり。

 ぴっちぴちの新米将校。


(※江田島とは広島県の南にある島。海軍兵学校が設置されている。アメリカだと士官学校とかに当たる)。


 成績劣悪でハンモックナンバーも最低。

 つまり、卒業できたのが不思議なくらいの落ちこぼれ。


(※ハンモックナンバーとは、兵学校で成績順に割り当てられた番号。寝床となるハンモックがその順になっていた。卒業後は卒業席次も加味される)。


 そこで正規の海軍ではなく、半端もの扱いの『特務艦隊』に入隊させられ、これが初めての任務……。


 しかも、だ。


 人見知りをするシャイな性格のため、初対面の人物とは目をあわせられない。


 おまけに童貞だから、相手が女の子だとなおさら。

 必然的に、下をむいたままの挨拶となったわけだ。


 ところで……。


 先ほどからしきりに『特務艦隊』とか『特務実験艦隊』とかいう聞きなれない艦隊名が出てきているんだが。


『特務艦隊』とは、海軍の嫌われ者ばかりあつめた『愚連艦隊』のことだ。

 愚連艦隊は、伊豆は下田を本拠地とする、『大官寺重蔵司令長官』が指揮している艦隊のことだ。


 ということは。


 海南島は、愚連艦隊の特殊実験艦や特殊装備を開発するための、秘密実験開発基地ということになる。


 でもって『特務艦隊』の実験艦隊が『特務実験艦隊』。

 安直な名前って思うけど、『愚連実験艦隊』よりはマシか。


 と、まあ……。

 くわしくはを参照してもらいたい(あわわわ……)。


(※別資料……独立愚連艦隊シリーズおよび平成愚連艦隊シリーズのこと)


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