第2話 本当に叶ってしまうの?


あれから数日が経った。




あの日以来、私は黒いノートを開くたびに、ほんの少し手が震える。


あれは偶然──そう思いたいのに、心の奥では、あの腹痛が「私のせいかもしれない」と確信していた。




だけど、本当に私が?


願っただけで、人にそんなことが起きるなんて、あるはずがない。




「……もう一度だけ、試してみようか」




そう思ったのは、木曜日の夜のことだった。




その日も職場で、ちょっとしたイライラが溜まっていた。


コピー機の順番を抜かしてきた後輩・高梨さん。


別に悪気はないのかもしれないけど、こっちが急いでるのに「あ、すみません」で済まされると、なんとも言えないもやもやが残る。




家に帰って、夕飯を食べた後、私はそっとノートを開いた。


ペンを持つ指が、少しだけ汗ばんでいる。




「高梨さん、明日寝坊しますように」




声には出さない。ただ、強く、強く思いながら書いた。


“願い”ではなく“念じる”ような感覚。




そして翌朝──


職場に着いて、まず目に入ったのは、なぜかバタバタしている上司の姿だった。




「高梨、今日まだ来てないのか?」




「連絡ありました。寝坊したらしくて、あと30分くらいで来るそうです」




背筋に電気が走った。




まさか。


また、叶った……?




その日は、業務中ずっと心ここにあらずだった。


高梨さんが来ても、彼女に何の落ち度もないとわかっているのに、私は目を合わせることができなかった。




誰にも話せない。


こんな力があるなんて、言ったところで気味悪がられるだけだ。


それに、もし信じられたとして──




「だったら、誰かを不幸にしてよ」って言われたら?




そんな想像をしただけで、ゾッとする。




夜、ノートを開く。


白いページに、何も書けずに、私はそっと閉じた。




けれど、心の奥でふとよぎった言葉がある。




──この力、もし“良いこと”に使えたら?

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