絶望NISAはじめました

ちびまるフォイ

ちょうどいいくらいの絶望

今日もニュースは世界がいかに終わってるかを教えてくれた。


『AIの登場により、人間の失業率は90%超え!』

『半年から30年の間に、巨大地震が襲います!』

『今や核戦争まったなし! バチバチの会見!』


「はあ、世界はお先真っ暗だなぁ……。

 しかし一番絶望的なのは貯金がないことくらいか」


預金通帳の残高を見ることすら怖い。

なんとかお金を貯められないものか。


そんな自分の思考を読み取った監視AIがスマホに広告を出す。


『絶望NISA はじめてみませんか?』



「なんだこれ? 世界が絶望するほど、大儲けのチャンス……!?」


まさに混沌と混迷を極めている現代にぴったりじゃないか。

さっそく全財産をすべて突っ込んだ。


「明日は今日よりもきっと悪い日になる!

 世界が絶望して俺だけ大儲けだ!!」


絶望投資をはじめて数日が過ぎた。

世界は今も絶望へとまっすぐ進んで投資は好調。


「絶望投資額がもう10倍になってる!

 いやぁ大儲けだ! 俺の判断は間違ってなかった!」


あとはいつ引き出すかでしかない。


世界はあいかわらず絶望を続けてくれている。

まだまだ引き出すのは早いかもしれない。


「うーーん。まだまだ絶望されそうだな。

 もっと絶望して価値があがってから引き出そう」


絶望投資は切り崩さす、得た利益はふたたび絶望投資へと突っ込んだ。


それが失敗だった。


数日後、世界の新しいリーダーが登場。

世界は一気に絶望から希望へと転じた。


絶望投資額を見た瞬間、その金額の下がりぶりを二度見するほど。


「な、なんでこんなに絶望額がさがってるんだ!?

 これじゃ大損じゃないか!?」


これまで世界を覆っていた不安や混沌を、

新しい世界のリーダーが晴らしてしまっていた。


これにより世界は絶望から希望へと舵を切り、

必然的に絶望投資の値下がりをまねく結果となった。


世界は希望をもっているのに、

貯金額がみるみる下がる自分は絶望の淵に立たされる。


「世界が希望に満ちるなんて困る!

 こっちは絶望しなくちゃお金がないんだ!

 もっと絶望してもらわなくちゃ幸せになれない!!」


どうにか再び絶望のどん底に叩き落すことはできないか。

あれこれと考えた結果、かつての著名人のもとを訪れた。


「こんにちは。あなたがかつて世紀の大予言をした"ダストラノムス"さんですね」


「いかにも。私が伝説の預言者である。だが今はそんな力もない。

 今はニュース番組の朝の星座占いを担当しているだけだ」


「そう言わず。あなたに予言してもらいたいんです。もう一度!」


「なぜかね?」


「世界にはもっと絶望してもらわなくちゃ困るからです!!」


「……言ったはずだ。私にはもう予言力が無いと」


「予言してくれたらお金あげますよ」

「それを先にいいたまえよ君」


こうして予言者にお金を積んで、とりあえず予言してもらうことにした。

大事なのはごく一部でも不安を沸き立たせること。


一部の人がパニックになれば、周囲に伝染してのちのち世界は絶望する。


一定の信者がいるかつての予言者の言葉は絶望の火種に使う。


「ごほん。では未来を予言しよう」


「よろしくお願いします」


「あと10年後に世界は確実に破滅するだろう!!

 小惑星の衝突! 宇宙人の襲来! 最終核戦争!!

 これらが起きて人類は破滅するーー!」


「よっ! にっぽんいち!!」


予言者の言葉は信者を通じて広がった。

自分もたくさんの広告を出して世間に世界の破滅を訴えた。


それは植物の種に毎日水をあげるように地道な作業だったが、

やがてちゃんと絶望の花が咲いてくれた。


世界は予言を真に受けて絶望してくれた。


「世界は破滅するのよ!!」

「宇宙人が明日襲ってくる!」

「最終核戦争前にシェルターを買わなくちゃ!!」


誰もが絶望の中でもがき苦しんでいる中、

自分は絶望投資の金額の跳ね上がりを見て幸福そのものだった。


「すごい! 最初の投資額の10000倍になっている!!

 みんなたくさん絶望してくれてるんだ!!」


世界は絶望のピークに達していた。

自殺する人も後を絶たず、自殺補助業者まで出てくるほど。


「前回はまだ絶望できると引き出さずに失敗した。

 今回はそんなミスしないぞ。今がきっとピークのはずだ」


この先の絶望投資の値下がりを心配し、すべて引き出した。

一気に億万長者になり絶望の世界で幸福を掴んだ。


「わっはっは! 絶望を味方につけて人生勝ち組だ!

 さーーて! 何をしようかな!!」


大量のお金が手に入った。

残りの人生で使い切れるかもわからない金額。


「せっかくだし散在しようかな。キャバクラにでも行くか!」


大量のお金を見せびらかせるように歩いて、

高級キャバクラへと足を運んだ。


店の前には「CLOSE」の文字。


「あれ? なんだよ閉まってるのか」


他の店も同じだった。どこも閉店していた。

キャバクラは諦めて旅行にでも行こうと思った。


「すみません。全便欠航しております……」


「え!? それじゃ旅行できないの!?」


「そもそもこんな絶望の世界情勢で旅行する人もいませんし……」


旅行もダメだった。


美味しい料理もレストランは閉店。

テーマパークや温泉も当然のように閉まってる。

買い物も絶望パニックの買い占めで何も買えやしない。


絶望投資で大儲けしたはずが、

そのお金を使う先がすでに失われていることに気がついた。



「みんな絶望しすぎだ!! そんなに絶望したらお金が使えないだろーー!!」



その後、自分の絶望投資金はすべて地球脱出プログラムに注ぎ込まれた。

地球脱出の希望を得て、絶望から脱出し世界はもとに戻った。


自分の貯金額ももとに戻った。

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