2.焼きそば屋台

―響也―

「ありがとうございまーす」

先に注文していた女の子たちが焼きそばのパックを手に立ち去る。

レジ前に近づき、背が小柄な男の子に声をかけた。

「焼きそば二つください」

「はい。八百円です」

財布から千円札を一枚出して渡す。

おつりを貰うまでの間に、じっとり汗が滲んでくる。屋台の奥では扇風機が回っているようだが、こんな所でずっと働いていたら倒れてしまいそうだ。

レジをしてくれた彼の他に、屋台の中には二人の男性がいた。

奥で具材を切っている男の人が着ているTシャツの背中には、大学名らしきロゴがプリントされている。バイトで来た学生なんだろう。

もう一人は鉄板の前で黙々と焼きそばを作っていた。ちょうど出来上がったのか、鉄板から焼きそばをパックに移し始める。

手際良く詰めていく手元を何となく見ていたら、不意に低い声が降ってきた。

「マヨネーズどうします」

「……あ、えっと」

顔を上げると、目が合った。

切れ長の鋭い二重、厚い唇。日本人離れした派手な顔立ちをしている。さっきまで鉄板に向かって屈んでいたから気づかなかったが、背筋を伸ばしたら随分と身長も高い。

つい観察するように見てしまったが、何故か彼の方も黙って俺の事をじっと見てくるので、だんだんと落ち着かない気持ちになってきた。

「え、ええと」

助けを求めるように幼馴染の姿を探す。

空いている席を見つけたのか、買ってきたビールをテーブルに置いている一樹に向かって声を張った。

「いっちゃーん、マヨネーズかけるー?」

「かけちゃえー」

調子の良い返事が返ってくる。

「はーい。じゃあ、お願いします」

「了解です、思い切りかけときます」

「い、いや程々で」

細いノズルのボトルから、マヨネーズが勢いよく吹き出す。お好み焼きかと思う仕上がりになったが、たまにはこんなのも良いか、と諦めた。

パックに蓋をし輪ゴムで留め、どうぞと差し出してくれたので受け取る。

「ありがとう」

「あ、ちょっと待ってください」

何かと思ったら、ウェットティッシュを一枚取って戻ってきた。それ貸してください、と今俺が受け取ったばかりのパックを隅に置くと、俺の手を取り、持って来たウエットティッシュで丁寧に拭き始めた。

「マヨネーズ、付いちゃってました」

「あ……」

されるがままになりながら、つい彼の手を見てしまう。若々しく日に焼けた肌に、くっきりと血管が浮き出ていて視線が吸い寄せられる。体温が高く、触れている手のひらは汗ばんでいた。

「はい、もう大丈夫です」

「ありがとう」

再び焼きそばのパックを受け取る。

彼の顔を見ると、大粒の汗が頬を伝っていた。タオルで頭を覆っているが、それでは抑えきれないらしい。ぽと、とカウンターの上に一滴落ちる。

「鉄板の前、暑いでしょ。頑張ってね」

労いの言葉をかけ、一樹が待つ飲食スペースへと向かった。

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