シナリオ進行 ③ イベント:後悔のちの日常風景 1/2

第2話 男の娘な彼女と今の親友1

 そろそろ、来る頃かな。


 待ち合わせの駅のホームで、次に来る電車を知らせる電光掲示板と、その横に据え付けられた、時計を見ながらそんなことを思う。

 ここは、真田高校へと向かう、駅のホーム。

 俺の利用する最寄駅から乗る列車は、直接真田駅と向かわないため、乗り換えた先のホームだ。

 俺はここで友人と、登校前の待ち合わせをしているのだった。

 勿論、友人だけでなく、すばるとも待ち合わせしているのだけど。


仁君じんくんっ!おっはよー!!」

「ぐほうっ!?」


 油断していた俺に、おはようの挨拶と、タックル気味な飛び込みが浴びせられた。


「お、おはよう昴。悪いんだけど、いきなり突撃するのは止めてね」

「えー。ただの朝の挨拶だって!おはようのハグ。さ、今度は仁君の番だよ?」


 咎める俺を軽く流しながら、昴は両腕を開いて俺を待ち受ける体制をとった。

 いや、人の目もあるし、朝っぱらから抱きしめたりしないからね?


「さあさあ、仁君っ」

「あのさ、昴」

「なんだよー。また、照れてるの?」

「いや、そうじゃなくてさ」


 俺からのハグを今か今かと待ち構える彼女を制する。

 何故かと言えば、今こうして、ここに彼女だけがいるのはおかしいことだからだ。


「昴、他の二人はどうしたんだよ。何で昴だけがここにいるのさ」

「え?いやー、早く仁君に会いたくってさ!二人はもう少ししたら来ると思うよ?」


 俺の追及に視線を逸らす昴。


「まさか、ここまで走ったりしてないよね?」

「も、勿論だよっ。そんなわけないじゃない」

「駅で走るのは危ないから、絶対にしちゃ駄目だよ。って言ったよな俺」

「だ、だから走ってないって」

「じゃあ何で二人はまだ来てないのに、昴だけ先に着いてるんだよ」


 しどろもどろになりながら答える昴を追及する。

 通学通勤でそれなりに混雑する駅で走るなんて、危ないし、迷惑この上ない。


「じ、仁君に早く会いたかったからさっ。愛、愛の力だよ」

「誤魔化そうとするんじゃないの」


 言い訳しようとする、彼女の鼻を摘まむ。


「前にも言っただろ、走っちゃ駄目だって」

「し、してないもん」

「すーばーるー?」

「うう。走ってないもん。到着する前に階段近くに移動して、ちょっと早歩きしただけだもん」

「だから、それが危ないの」

「んんー!!」


 さっきより強めに、鼻を摘まんでやる。


「だってー、仁君に早く会いたいしー」

「それでケガしたらどうするんだよ。俺を心配させるつもり?」

「ううー。ゴベンナサイ」


 素直に謝る昴を見て、撮んだ指を離す。


「もうしちゃ駄目だぞ、昴」

「うう。反省しますぅ」

「言っておくけどね、どんなに遅くったって大丈夫、ちゃんと到着するまで待ってるからさ」

「えへへ、そっか。うん、じゃあ我慢してちゃんと歩いてくるね」

「ん。分かればよろしい」


 俺の返事に満足したのか、昴は素直に言う事を聞いてくれた。


「それじゃ、ハイ、仁君」

「それじゃって何さ」

「え?ちゃんとゴメンナサイしたから、ご褒美のハグ」

「いや、しないから」


 またも彼女は両手を開いて、ハグを求めてきた。


「えー。だって仁君にハグしてもらわないと元気でないしっ」

「いや、さっきも突撃するくらい元気だったし。昴いつでも元気じゃん」

「違うよー。仁君から元気貰ってるから、ボクはいつでも元気なのっ」


 言いながら、両手を開いてにじり寄ってくる昴。


「と、言ううわけでボクに元気を寄こせー!さっきのハグで元気使い切っちゃったからね。今日も一日頑張るために元気頂戴っ」

「うーん」

「さあさ。恥ずかしがらないで、どぞどぞ」

「うーん、それじゃあ」


 ぐいぐい押してくる彼女に、ついつい流されそうになる俺。


「朝っぱらから何してんだよ、お前ら」


 そんな俺に対して、ほんのちょっと冷めた声がかけられた。


「よ、ヨシか。お早う」

義明よしあき、おっはよー」

「おはよう。ってなんで昴までここで会った感じなんだよ。さっきまで一緒にいただろうがよ」


 呆れながら挨拶をしてきたのは、川柳義明かわやなぎよしあきであった。

 俺の友人であり、いや親友である。

 俺はヨシと、彼はジンと俺のことを呼ぶ関係である。

 その後ろには、義明の友人である矢野優子やのゆうこさんも、ちょっと困った顔で笑いながら控えていた。


「あぶねーから先行くなって言っただろうがよ、昴」

「いやー、だって一刻も早く仁君に会いたかったしー」

「駄目だよ、昴ちゃん。急ぐと危ないよ?」

「昴。やっぱ走っただろ」

「は、走ってないもん!速足駆け足だもんっ」

「いや駆け足は走ってるからね?」


 ハグは中止。

 もう一回鼻を摘まむ刑である。


「悪いな。ジン、昴が迷惑かけて」

「平気平気。というか、どうやら俺のせいみたいだしね」

「そんなことは無いだろ。いや、うん。彼氏のお前のせいだな、反省しろ」

「ってマジで俺の責任にするのかよ!?」

「そうだー。反省しろ―」

「怒られてるのは昴だぞ。ちゃんと反省するの」

「んー、仁君。鼻摘まむのやめてよー」


 笑いながら、軽口を叩きあう。

 昴もまた、義明の友人であり、同じ中学の出身である。


 そんなわけでこの風景は、俺が高校に入学して、彼らと一緒に登校するようになってから、良く見かけられるようになったものであった。

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