男の娘ヒロイン√が開放されました!~ギャルゲーの友人キャラ転生者に嵌められて、主人公からドロップしましたが、原作にない展開になってます~

一寸ネル

シナリオ進行 エンディング 1/2

第1話 俺の彼女は男の娘です

「じーんくんっ。ハイ、あーん」


 俺の目の前に差し出されたのは、美味しそうなおかず。

 そのひとつが、俺の口元へと向けられている。


 ……これ、思った以上に恥ずかしいな。

 決して誰かに見られているわけでもない。


 学校の屋上には、俺とすばるの二人しかいないのに。

 それでも、食べさせてもらうなんて、想像以上に気恥ずかしかった。


「どうしたの?仁君じんくん。あ、嫌いなやつだった?別のおかずにしよっか」

「あ、いやそうじゃなくて」

「そうじゃなくて?」

「その、ちょっと……恥ずかしいかなって」

「なーんだっ。そんなの気にしなくていいのにー!」


 素直な気持ちを打ち明けると、昴はそれを明るく笑い飛ばした。


「そうは言ってもさ」

「えー、いいじゃん。恋人同士なんだからっ」

「そりゃそうなんだけど」

「あ、それとも……もしかして」


 そこで、昴はふっと表情を曇らせる。


「ボクのこと、嫌いになっちゃった……?だから、嫌なの?」

「そ、そんなわけないだろ!」


 突然の言葉に、心臓が跳ねた。

 とんでもない誤解をされて、慌てて首を振る。


「た、食べるよ。作ってくれたお弁当、俺の好物ばっかりなんだから!」


 慌てて口を開けると、昴はぱっと笑顔を取り戻した。


「良かった!はい、あーん」

「あーん」

「美味しい?仁君」

「もぐ……うん、美味しい。けどさ、昴」


 差し出された料理を咀嚼しながら、俺は思わず苦笑する。

 明るくなった昴の顔が可愛すぎるけど、これってさ。


「今の、嘘泣きだろ」

「えー?そんなことないけどー」

「すーばーるー?」

「へへっ。だって素直に食べてくれない仁君が悪いんだもん。はい、あーん」


 悪戯っぽく笑いながら、また箸を伸ばしてくる。

 結局、俺は可愛い弁当箱の中身を、最後まで食べさせてもらうことになった。


「ふう、ごちそうさま」

「はい、お粗末様でした」


 差し出されたお茶を受け取り、喉を潤す。


「美味しかったよ、ありがと、昴」

「いえいえ、どういたしましてっ。あ、それでさ、どれが一番美味しかったか教えて欲しいかなっ」

「もちろん。うーんと……卵焼きかな」

「本当に?」

「ホントに」

「わーい!やったー!」


 少ししょっぱい醤油味の卵焼き。

 甘くないその味が、俺の好みにぴったりだった。


「へへー。実はさ、お弁当はお母さんに手伝ってもらったんだけど、卵焼きだけはボク一人で作ったんだよ」

「あ、そうだったのか」

「そうなんですっ。嬉しいなー、へへっ」


 今にも飛び跳ねそうな笑顔に、俺も自然と笑みがこぼれる。

 本当に、俺には勿体ないくらいの彼女だ。


 赤みがかった茶髪をサイドテールにまとめて、大きな瞳と小さな唇が愛らしい。

 どう見ても――いや、言うまでもなく、可愛い。


 それになにより、彼女は『ボク子』だ。

 え?『ボク子』とは何なのかって?


 ボクっ娘は、一人称が『ボク』の女の子。

 だけど昴は、男の子でありながら、女の子みたいに可愛い。

 つまり『ボク子』――男の娘。

 俺の恋人で、世界で一番可愛い『彼女』だ。


「仁君、なんかボーっとしてない?大丈夫?」

「ん、大丈夫。ただ、昴が可愛すぎて見とれてただけ」

「も、もうっ。急にそんなこと言うなよ、照れるじゃないかー!」

「はは、ごめんごめん」

「嬉しいけどさー。仁君の方が恥ずかしい事言ってるじゃんっ。照れるなー、もうっ」


 軽口を叩き合いながら、笑い合う。

 その笑顔が、胸に温かさを満たしていく。


 俺は……この世界に来て、本当に良かったと思う。


 そう、ここは『恋愛ゲーム』の世界だ。

 いや、『恋愛ゲーム』を元にした世界だろうか。

 信じられないかもしれないけれど、俺は知っている。

 キャラクターとして設定されていた望月昴もちづきすばるが、こうして目の前で笑っている。

 女の子より可愛い男の娘として描かれた存在が、今こうして、現実のように息づいているのだ。


 俺は、そのゲームの世界に転生してしまった。

 名前も大江仁志おおえひとしというキャラクターのものに変わり、この世界を生きている。


 けれど、その、ゲームの世界の中で、設定にないはずのことが起きた。

 俺と昴が――恋人同士になったのだ。


「仁君、本当に顔赤いよ?熱とかじゃないよね」

「違うよ。ただ……俺、今すごく幸せなんだ」

「もう……ほんと恥ずかしいこと言うなー仁君はっ。照れちゃうんだけどっ」


 昴が笑ってくれる。

 俺の隣にいて、俺を見てくれている。

 

 実の所、辛いことだってあった。

 大変なことも。

 それでも、こうして、昴と出会えて、恋人同士になれて。


 今の俺は、最高に幸せなんだ。

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