江の島巡り

Rie

— 遠い声 —

---


波音は 今日も変わらず寄せては返す

潮風に スカートの裾がふわりと揺れた


隣を歩く あなたの声が

どこか遠くで 重なってしまう


—— ここ、来たことある?


うん、と笑って 頷いたけど

ほんとは違う人と

同じ景色を見た場所だった


あのとき手を繋いだ階段

かき氷を分け合った小さな店

灯台の下で 名前を呼ばれた気がした


忘れたふりで 記憶をなぞる

あの人には もう届かない想いごと


ひとつの風景に 二つの名前

今でも 海は優しくて残酷だ


歩きながら

心の中だけで そっと呟いた


— ごめんね、あなたじゃない人を

          思い出してたの


      — 眩しかった

          あの人へ —


---



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

江の島巡り Rie @riyeandtea

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ