第10話 俺、初めて仲間を見つけた

ギルドの依頼掲示板の前で、俺はじっと張り紙を見つめていた。


(うーん……どれも微妙にリスク高めだな)


慎重に選ぼうと思えば思うほど、ソロでは難しい依頼ばかりが目につく。野犬の一件で痛い目を見た俺としては、無茶は避けたい。


そんな時、後ろから声をかけられた。


「無理のない依頼もいいですが、今後のことも考えて、もしよければパーティを組んでみませんか? クロスケさんはこれまで一人で頑張ってこられましたが、パーティを組むとぐっと安全になりますよ!」


声の主はいつもの受付嬢だった。彼女は心配そうに微笑みながら俺を見つめている。


「……パーティ、か」


俺は思わず呟く。正直、誰かと組むなんて考えたこともなかった。だが、現実問題としてソロの限界は感じている。


「実は今、ちょうどパーティメンバーを探している方がいまして……」


受付嬢はそう言って、ギルドの隅に目を向けた。そこには、銀色の長い髪を持つ少女が座っていた。腰まで届く艶やかな髪は、淡く青みを帯びている。琥珀色の瞳はどこか冷たさを感じさせ、端正な顔立ちは人形のように整っていた。


(……すげぇ、美人だな)


無意識に見惚れていると、受付嬢が微笑んだ。


「エルヴィナさんという方です。戦闘の腕前は確かで、動きも正確なんですが、火力が少し足りなくて……そのせいで、単独では依頼の達成が難しい場面もあるようです」


「……俺も、一人が危険だと痛感したばかりだしな……」


思わず呟くと、受付嬢は小さく笑った。


「エルヴィナさんはこれまでも何人かに声をかけられていましたが、どうも相性が合わなかったようで。もしよければ、お引き合わせしますけど?」


断る理由もない。むしろ、ここで断る方が不自然かもしれない。


「……わかった。会ってみるよ」


そう答えると、受付嬢は嬉しそうに頷いた。


「かしこまりました。少々お待ちください」


受付嬢は軽やかにエルヴィナのもとへ向かい、何やら耳打ちする。エルヴィナは静かに頷き、ゆったりとした動作でこちらへ歩み寄ってきた。


「あなたが……クロスケさんですね。リアナさんから話は聞きました。私とパーティを組むことを勧められた方だと」


「ええ、受付嬢から紹介されて、少し話を聞いただけですが……」


その瞬間、受付嬢が慌てて割って入ってきた。


「ちょ、ちょっと待ってください! 受付嬢なんて名前じゃありません! 私の名前はリアナです!」


頬を膨らませて名前を名乗るリアナに、俺は思わず苦笑した。


エルヴィナの容姿に緊張していたが、リアナのその様子を見て、少しだけ肩の力が抜けた。


「何はともあれ、よろしくお願いします。初めてのパーティなのでどうすればいいかわかっておりませんが」


「それなら、一度試してみませんか? お互いの実力を確かめる意味でも、ちょうどいいかと」


エルヴィナは淡々と、だが礼儀正しく提案する。その姿勢に、俺は好感を抱いた。


「……わかりました。よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


会話の途中、ふと俺は口にした。


「そういえば……敬語じゃなくても大丈夫ですか? ちょっと堅苦しくて」


「はい。でも……私は敬語のほうが話しやすいので、私は敬語のままでお願いします」


「わかった」


握手を交わすこともなく、俺たちはギルドの受付へと向かった。パーティ結成の手続きを済ませ、正式に仲間となる。


「では、まずはこの依頼などいかがでしょうか?」


リアナが差し出したのは、森の周辺に現れる小型の魔物を討伐する依頼だった。最近は小型の魔物ばかりで、二人なら問題なくこなせそうだという。


「これなら無理なくこなせそうだな」


エルヴィナは小さく頷き、「同意見です。では、さっそく準備を整えましょう」と淡々と言った。そのままギルドを後にする。


(……まるでお嬢様みたいな人だな)


パーティを組むことで俺のスキルは使えなくなる。あの不気味な力を使えないというデメリットはあるが、あれが安全かどうかもわからないし、そもそも安全を考えたら、スキルなしでも仲間と行動するほうがいい……そう判断するしかない。


準備を終えた俺たちは、森の入り口まで向かいながら道中で簡単な打ち合わせを行った。エルヴィナは地図を取り出し、淡々と説明を始める。


「今回の討伐対象は、森の南側に出没している『フォレストコボルト』です。知能は低めですが、群れる習性があります。油断は禁物です」


「なるほど……単独じゃ厄介そうだな」


「はい、今回は、私の実力も見ておいてほしいので、前衛を担当して動きます。クロスケさんは周囲の警戒と、援護をしていただきながら私の立ち回りを見てください」


「了解した」


互いに役割を確認し、息を合わせる。エルヴィナは淡々としているが、その指示は的確だった。


森の中に足を踏み入れると、ひんやりとした空気に包まれる。鳥のさえずりもなく、静まり返った空間はどこか不気味だ。


「……緊張してますか?」


エルヴィナがふと尋ねてきた。普段無表情な彼女の声に、わずかに柔らかさが混じる。


「まあ、少しはな。でも、準備は万全だ」


「それなら安心です。私も、準備万全です」


そんな会話を交わしつつ、俺たちは慎重に森の奥へと進んでいった。こうして、俺とエルヴィナの最初の冒険が静かに始まった。

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俺、気づいたら異世界にいたので帰ります ユキシロ屋 @Yukishiroya

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