第8話 俺、慢心した
ギルドに戻った俺は、討伐の証拠を提出して報酬を受け取った。額はささやかだが、宿代と数日の食費にはなる。
「はぁ……これが現実ってやつか」
宿に戻り、風呂代わりの桶で汗を流していると、ふと自分の成長を実感する。
(そういえば、森での動き……妙に体が軽かった気がする)
ステータス画面を確認してみると、レベルが上がっていた。
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Name:黒栖 慧(クロスケ)
Age:17
Class:無
Level:6
HP:280/280
MP:510/510
Skills:無
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「おお、上がってる……もしかして、見てなかったけどスライム討伐の時にも少し上がってたのかな?……スキルはまだ無か」
少し残念に思いつつも、成長している実感が嬉しかった。
翌日、ギルドに顔を出すと、受付嬢から新たな依頼を勧められる前に、彼女が少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「実は、今ちょうど銅級の冒険者たちが他の依頼で手一杯でして……本来なら銅級以上が受けるべき依頼なんですが、クロスケさんならと思いまして」
彼女は小声で付け加える。「昨日の野犬を無傷で討伐されたこと、ギルドでもちょっとした話題になっていまして……もちろん、無理にとは言いません。ただ、今の状況ではあなたしか頼れる人がいなくて……」
「クロスケさん、今回は少し難しい依頼になりますが、挑戦してみませんか?」
依頼内容は『森の奥に棲む凶暴化した野犬の群れの討伐』。昨日の野犬よりも格段に強く、失敗すれば死もあり得る。ただ、そのぶん報酬も破格だった。
「レベルも上がったし……これくらいなら、いけるかもしれない。それに、これをこなせば宿代にも困らないし……」
気合を入れて森の奥へ向かうと、そこには今までとは比べものにならないほど凶暴な野犬たちが待ち受けていた。
その野犬たちは、通常の野犬とはまるで違っていた。まず、体格が一回り大きく、筋肉の盛り上がりも尋常ではない。毛並みは黒ずんだ色に変色し、ところどころ斑のような模様が浮かび上がっている。鋭く光る赤い目は、まるで獲物を見つけた獣そのもので、唸り声も低く、耳に残るような不快な響きを持っていた。
その異様な姿に、俺は思わず身震いする。
「……うわ、マジか。これはヤバい」
野犬たちの猛攻を必死に捌きながら、徐々に追い詰められていく俺。
鋭い牙が足に食い込み、激痛が走る。
「ぐっ……クソッ、足が……!」
足元には血が広がり、まともに立つことすら難しくなる。
「……ダメだ、もう無理かもしれない……」
その瞬間、頭の奥で何かが弾けるような感覚が走る。
(──死にたくない。まだ、終わりたくない!)
気付けば、視界が歪み、全身が黒い靄に包まれていた。体は勝手に動き始め、周囲の音が消えるような錯覚に陥る。
野犬たちが突然怯えたように動きを止めた。
次の瞬間、俺の体は信じられない速度で動き、野犬たちを正確に、無慈悲に斬り伏せていった。自分ではまるで操り人形になったような感覚しかなく、意識だけが浮かび上がっているようだった。
「……な、なんだこれ……!?」
気付けば、すべての野犬は倒れ伏していた。
その異様な光景に、俺は足が崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。
(……今のは、一体……)
ふらふらと立ち上がり、ステータス画面を確認する。
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Name:黒栖 慧(クロスケ)
Age:17
Class:???
Level:8
HP:230/350
MP:530/550
Skills:黒閃(NEW!)
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「……な、なんだこれ……? 黒閃……? しかもクラスが“???”になってる……しかも、MPが少し減ってる……? まさか、さっきのが原因か?」
おそるおそるスキルの詳細を開くと、奇妙な文字化け混じりの説明が表示された。
『䷀䷿𐎯𐎳𓂆𓄤𐎻𐎛𓃭𓁛𐎰𐎠力で空間歪曲による疑似瞬間移動が可能。移動距離は短い』
「……な、なんだこれ。説明の一部が読めない……いや、これ、絶対普通のスキルじゃない……」
俺は手のひらにじんわり汗が滲むのを感じながら、心の中でそっとステータス画面を閉じた。
「……これは、一般的なスキルではなさそうだ。人前で使うのは、まずいかもしれないな」
森を後にしながら、俺は深く心に誓った。
(でも、これで……俺は、もっと強くなれるかもしれない)
そんな予感を胸に、俺は噛まれた足を引きずりながら森を後にした。
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