第7話 俺、次の依頼に挑むことにした

 翌朝、目を覚ました俺は、昨日のスライム討伐の後始末を思い出してげんなりした。


「……いや、あのスライムの体液、マジで落ちないんだけど。洗っても洗っても、ぬめりと臭いが取れないって、どういうことだよ……」


 宿の女将にも「ちょっと臭うわね」と苦笑され、洗濯の手間賃まで追加で取られる始末だった。さらに、討伐報酬も雀の涙で、宿代すらギリギリ。


「このままじゃ宿に泊まれなくなる……飯も食えなくなる……次はもっと稼がないと……」


 そんな切実な理由から、俺は今日もギルドに足を運んだ。


 すっかり見慣れたギルドの建物。その中には、今日も冒険者たちの活気が溢れていた。俺は掲示板の前で足を止め、次の依頼を探し始める。


「うーん……これとか?」


 荷物運びや配達の依頼もあったが、俺の目に留まったのは『森の野犬討伐』という依頼だった。対象はそこまで強くないが、動きが素早く、油断すると危険らしい。


「昨日のスライムよりは手強そうだけど……今の俺にちょうどいいかもな」


 そう呟いていると、隣で見ていた中年の冒険者が声をかけてきた。


「おう、兄ちゃん、鉄級か? その依頼は新人向けの登竜門だ。まあ、慎重にな」


「ありがとうございます、気をつけます」


 礼を言って依頼書を持ち、受付で手続きを済ませる。


「気をつけてくださいね、クロスケさん。野犬はスライムとは違って素早いですから」


 受付嬢の言葉に軽く会釈し、俺は準備を整えて森へ向かった。


 森の入り口で剣の柄を握り直し、深呼吸する。


「さて……ここからが本番だな」


 森の中は薄暗く、野犬の遠吠えがかすかに響いている。スライムのときとは違う緊張感が漂っていた。


 足元に気をつけながら進んでいくと、ついに数匹の野犬が現れた。鋭い牙をむき出しにし、こちらを威嚇している。


「よし、落ち着け……焦るな……」


 野犬の動きを見極めながら、俺は剣を構える。


「来るぞ……!」


 次の瞬間、野犬たちが一斉に襲いかかってきた。


「くそっ!」


 俺は必死に剣を振るい、何とか一匹を撃退する。だが、すぐに別の野犬が飛びかかってくる。


「速い……!」


 咄嗟に身をひねって回避し、剣で反撃する。野犬の数は徐々に減っていくが、疲労も溜まっていく。


「まだだ……まだ終わらない……!」


 全神経を集中し、残りの野犬に挑む俺。ギリギリの戦いが続く中、ふと頭の片隅で思う。


(これはゲームじゃない。負けたら、本当に終わるんだ)


 必死の攻防の末、ついに最後の一匹を討ち倒す。


「はぁ、はぁ……やった、終わった……!」


 汗だくになりながらその場にへたり込む俺。全身が痛み、息も絶え絶えだ。


「これが……現実の戦いか……」


 しかし、どこかで不思議な充実感も感じていた。自分の力で困難を乗り越えたという達成感が、じんわりと心を満たす。


「ふふ、俺もちょっとは成長してるってことかな……」


 そう呟きながら、俺は討伐の証拠を手に取り、ふらふらと森を後にした。


(……次はどうなるか、わからないけど)


 空を見上げた俺は、どこか吹っ切れたような表情を浮かべる。


「やれるだけ、やってみるか……!」


 そう心に誓い、ギルドへの帰路を歩き出した。

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