第8話

 ルイーゼは目の前の状況を飲み込めずにいた。

 なぜなら……。


「さあ、ルイーゼ姉様! 遠慮せずに食べてね」

「あの……」

「そうですルイーゼ、たくさん食べないと元気になれませんよ」

「でも……」


(どうしてこんなことに……!?)


 ルイーゼは頭を抱えた。

 目の前のテーブルには美味しそうなクッキーやケーキが並べられている。

 そしてルイーゼの両隣には、オリヴァーと王女ミランが座っていた。


(まだ信じられないわ。『あれ』が夢じゃなかったなんて。私がオリヴァー様を助けて、王女殿下から感謝されているなんて……!!)



◇◇◇



 ルイーゼが目を覚ました時、医師や王女直属の使用人が安堵した様子でこちらを見ていた。


「ルイーゼ様が目を覚ましましたぞ!」

「えっと……どちら様でしょうか? それに、ここは……?」


 ルイーゼが頭に疑問符を浮かべていると、にこやかな医師から丁寧な自己紹介をされた。


「ルイーゼ様、少しお身体を診させてくださいませ」


 あれよあれよという間に、診察、魔力測定、投薬……と事が進んでいく。


 呆然としている間に聞かされたのは、ルイーゼが助けたのはオリヴァー・ノイラート侯爵子息であること。

 彼は王女を助けるためにバルコニーから落ちたこと。

 その場にいた皇太子や王女がルイーゼにひどく感謝していること。

 おそらくその時魔力が発現し、そのまま魔力消耗で倒れたこと――。


(信じがたいけど、この人たちが嘘をつく理由もないし……)


「えーっと、お役に立てて良かったです。治療をしていただきありがとうございます。では私はこれで……」


 王宮の人々に迷惑をかけるわけにはいかない。

 さっさと失礼しようとしたら、その場にいた全員に止められた。


「何を言ってるのですか!? まだ動いてはいけません。魔力が回復していませんからね」

「ルイーゼ様は王女殿下の賓客としてもてなすよう仰せつかっております」

「まずはお食事を食べていただかないと!」

「服やお部屋もご用意しましたから」


 あまりの勢いに断ることも出来ない。

 身を任せるしかなかった。



 そうこうしている間に、一日、二日と過ぎ、体調も魔力も回復した三日後、オリヴァーと王女がやって来たのだ。「お茶をしましょう」と――。



◇◇◇



「ルイーゼ様……いいえ、ルイーゼ姉様! 貴女は私の恩人ですわ! あのままオリヴァーが助からなかったら、兄様に殺されるところでしたもの」


 物騒なことを言いながらルイーゼの手をギュッと握るのは、ルイーゼよりも少し若いミラン王女殿下だ。

 艷やかな金髪と青い瞳がお人形のように可愛らしい。


 そして。


「僕の妻は優秀ですね。王女殿下に頭を下げさせるなんて、ノイラート家に相応しい」


 何故か満足げに話しているのはオリヴァー・ノイラートだ。

 彼は目の前のケーキを一口サイズに切ると、フォークを刺してルイーゼの口に当てた。


「あのっ……んぐっ」

「ルイーゼ、さっきから全然食べていませんね。こうでもしないと食べないでしょう?」

「ルイーゼ姉様、美味しいですか? 今日は私の好みで菓子を用意させたのですが……お口に合いましたか?」


 綺麗な二人にじっと見つめられ、ルイーゼは顔を赤く染める。

 ゴクンとケーキを飲み込むと、口を開いた。


「……美味しいです」 


 フルーツがたっぷり入ったケーキは見た目よりもあっさりしていて本当に美味しい。

 本当は「恩人なんて恐れ多いです」とか「私はまだ妻じゃないですよね?」とか言いたいことはたくさんあったのに、その言葉たちが引っ込んでしまうほどには。


「良かったー! 明日はもっと美味しい物を用意しますから、また一緒にお茶しましょうね」


 ミラン王女は顔を綻ばせた。笑うと花が咲いたようだ。ルイーゼは彼女が笑うだけで嬉しくなった。


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