鏡に吸い込まれました
船越麻央
アインシュタイン博士もビックリ!
あるフリマで壁掛け鏡を手に入れました。なんの変哲もない鏡ですが、深夜に怪異現象を起こすそうです。さっそく壁に掛けてきれいに磨きました。
夜になりましたが、特に何も怪異は起きていません。
鏡の中で光が渦巻いています。まわりの物をどんどん吸い込んでいます。まるでブラックホールのようです。
気が付くとわたしは見知らぬ場所にいました。たしか部屋で寝ていたはずでした。そう言えば……壁掛け鏡に吸い込まれたような気がします。
周囲を見回しましたが、今のところ特に何も怪異は起きていません。
ただわたしの周りは薄暗くて、誰もいません。一木一草もない荒野が延々と広がっているだけです。
今が朝なのか夜なのか分かりません。とにかく出口を探すことにしました。さてこの荒野をどう進めばよいものか。とりあえず歩き出しました。
右も左も分かりませんが、今のところ特に何も怪異は起きていません。
ただ何かにつまずいて転びそうになりました。何だろうとよく見ると……人間の頭蓋骨でした。
しばらく歩き回りましたが、薄暗い荒野が広がっているだけです。頭蓋骨は何個か見つけました。でも生きた人間には出会っていません。
ほかには特に何も怪異は起きていません。
空が渦を巻くように光っているだけです。
「あんた、どうしたの?」
やっと一人の女性に出会いました。
「あら! やっと会えた! ここはどこ? あなた誰?」
「あーあ、また犠牲者ね。ワタシはパルサー。ここはブラックホールの中よ。入ったら最後光さえも脱出できない魔界空間。諦めることね」
「そ、そんな! なんでわたしが! あの鏡がブラックホール? おかしいです!」
「ふふふ。宇宙の神秘よ」
ほかには特に何も怪異は起きていません。
やっと出会えた女性パルサーさん。元々はブラックホールとやらと双子だったそうです。宇宙の神秘だか何だか知りませんが、わたしはどうなるのでしょうか。ここで朽ち果てて砂になるのでしょうか。
相変わらず特に何も怪異は起きていません。
光さえも脱出できない……ここには昼も夜もないだけです……。
「あんた、ここから出たい?」
パルサーさんに聞かれました。
「も、もちろんです! 出られるんですか⁉」
「出られる保証はないけど……ノワール兄さんに頼んであげてもいいわよ」
「ホントですか! お願いします!」
ノワール兄さん……このブラックホールの主だそうです。
ここは時が止まっているようです。
パルサーさんの双子の兄、ノワール兄さん。この果てしない荒野のどこかにいるそうです。わたしはパルサーさんを信じることにしました。このままでは頭蓋骨の仲間入りです。パルサーさんお願い!
なお今のところ怪異は起きていません。
遠くの方に、机に向かっているわたし自身の蜃気楼が見えるだけです。
突然、空から巨大な火の玉が落下して来ました。それは……まるでゴムをのように大きく引き伸ばされ、地平線の彼方に消えていきました。あれは何だったのでしょうか。隕石? それともブラックホールに吸い込まれた恒星?
ただほかには怪異は起きていません。
荒涼とした大地が大きく渦巻いているだけです。
「ノワール兄さんに頼んできたわ。さあ行きましょ!」
どこかに行っていたパルサーさんが戻って来ました。
「わたし出られるんですね! どこに行くんですか?」
「いいからついて来て。でも本当にいいの? ホワイトホールの向こうがどうなっているのか不明よ」
特に何も怪異は……それどころではありません。
この薄暗い荒野、恐怖のブラックホール。ここからホワイトホールとやらを通って脱出するそうです。待っているのは暗黒と沈黙の世界かそれとも……でも迷っている場合ではありません。
「パルサーさん、お願い!」
特に何も怪異は起きていません。
パルサーさんと一緒にひたすら荒野を進んでいるだけです。
わたしとパルサーさんの目の前には巨大な蟻地獄があります。荒野を歩き続けてやっとたどり着きました。
「さあここよ。ここを滑り下りればホワイトホールに出られる。ただし……そこから先がどうなっているのか誰も知らない。それでも行くの?」
わたしの心は決まっています。
パルサーさん、ありがとう!
わたしは思い切って巨大蟻地獄に飛び込みました。パルサーさんには申し訳ないけど、これでここから脱出出来る! わたしは蟻地獄の底にまっしぐらに落ちていきました。
もはや何も怪異は起きていません。
わたしは……蟻地獄の底に飲み込まれました。さあホワイトホールです……光が見えてきました……。
了
鏡に吸い込まれました 船越麻央 @funakoshimao
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