第14話 リリスと店長
リリスは追いかけて問いただそうかとも考えたが、せっかく向こうから立ち去ってくれたのだ。多少のモヤモヤは心の奥深くにしまって、予定通り休日を楽しもうと気持ちを切り替えたのだった。
「こんにちは。いい植物は入っていますか?」
「やあ、いらっしゃい。そんなに毎週珍しい植物なんてないよ。しかし、お嬢さんたちは熱心だね」
「そういえば、例のトウモロコシ、いい感じで育っていますよ。もう、ちいさな実がなっています」
「ほう、それは良かった。買ってくれたのをちゃんと育ててくれるのはうれしいね。大きく育てるなら、一房残して、それ以外は間引きした方がいいみたいですよ」
「そうなのですか? せっかく、たくさん実がついてきたのに」
「小さいままなら、芯ごと食べられるからな。取れたてなら皮をむいて生でも食べられるし、時間が経ってもゆでて食べられるからね」
太った店長はうれしそうに目を細める。
間引いた小さなトウモロコシをヤングコーンもしくはベビーコーンと言い、収穫から時間が経つと茹でて食べるのだが、採れたて新鮮な物は生でも食べられる。
店長はそのことをリリスに教えてくれていたのだった。
「じゃあ、小さい時に収穫してみます。たくさん取れたら持ってきますね」
「いいねぇ。それと種をとるなら、さっき言ったように一株に一房だけ大きく育てれば、一房から何十個も種が取れるからね」
店長は今から楽しみとばかりに大きなおなかをぽんと叩いて喜ぶ。
「ところで店長さん。先ほど男の人が二人出て行ったと思うのですが、どういったご用だったのでしょうか?」
少年モードのマリウスはジルたちのことを尋ねる。
「ああ、さっきの貴族たちかい? なんだか病気に効く薬はないかと聞いてきたよ」
「どんな症状か言っていましたか?」
「足がむくんで、しびれているって言っていたな。焼けるような痛みがあり、寝込んでいるらしいよ」
店長は脂ののった顎に手を当てて、ジル達の事を思い出しながら話し始めた。店に貴族が来るのなど珍しく、誰かに話したくてしょうがない様子だった。ちなみにそれを話している相手が貴族であることをすっかり忘れている。
「それで、店長はなんて答えたのですか?」
「いや~それだけじゃあ、何の薬が効くかわからないし、貴族相手に下手な薬を売って効かないなってことになったら、下手したら殺されるから、そんな病気に効く薬はないって答えておいたよ」
店長は腹を叩きながら笑って答える。それを聞いたマリウスは、少し考えてからお礼を言った。
「わかりました。ありがとうございます。リリス様、今日のところは帰りましょう」
そう言ってマリウスは強引にリリスを連れ出す。
「え! どうしたのですか? マリウス。店長さん、また来ますね」
リリスは全く買い物ができないまま、店から連れ出そうとするマリウスに不満を持ちながらも、引っ張られるままに店を出る。
「どうしたのですか? いったい」
「遅かったか」
店の外に出たマリウスはジルの姿を探していた。
「ちょっと、どうしたのですか? 説明してくださいよ」
「話はあとだ。ジル王子を探すぞ。人の命がかかっているかもしれん」
マリウスはジルたちが去って行った方に小走りで移動し始めた。
人命がかかっていると言われれば、リリスも従うしかない。
しばらく二人の行方を捜したが、馬車で移動してしまったのか、見つけることができなかった。
「リリスよ。ジル王子の所に行くぞ」
「王宮に、ですか? でもわたしのような下級貴族がおいそれと会える相手じゃないですよ。明日、学院でなら会えると思いますが……」
「学院だと、詳しい話もできないだろう。それに、もしかしたら一刻を争うかもしれないぞ。何か手はないのか?」
マリウスの真剣な口調につられてリリスも真面目に考える。ジルに連絡を取る方法。ジルと仲の良いカイルなら取り次いでくれるかもしれない。しかし、そのカイルもジルと同じくらい会うのが難しい。
そうなるとリリスの知る限り、ジルに取り次げる人はアノ人しかいない。
アノ人とは約束もある。その話だと言えば、会えるはずだ。
リリスはマリウスに提案するとすぐさま、移動した。
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