お弁当の中身(○
「……」
「……」
誠司さんは、何が食べたいんだろ。
運動するんでしょ? 栄養になるものがいいのかな。どのくらい食べるんだろう。
卵焼きとか、ひじきご飯とか。あとなんだろう……。
「――らちゃん、桜ちゃん!」
「え、……なに」
「ぼーっとして。明日のお弁当を考えてたの?」
友達は私のノォトを眺めなる。卵焼きとか、いろいろさっき思ったことが、そのまま書いてあった。自分でも無意識に鉛筆を持っていたらしい。
「えっと、これは、その…………」
「へぇー。あの誠司さんにね?」
「違うの! 美味しいって言ってもらえるかな、なんて考えてない!」
「まだ、何も言ってないのに。……あ、いいのいいの。分かってるって。手作りを食べてもらったら、美味しいって言って欲しいものよね」
うんうん、って友達は勝手に頷いている。
「そうだね〜。卵焼きは甘めか、だしとか。どっちが好きなんだろう。ね?」
「どっちって。……聞きたくない」
「聞きたくないんじゃなくて、直接聞くと、もうお弁当作るの承諾するみたいで嫌なんでしょ〜?」
「な、なんでそんなこと」
あたしが考えていることを、友達が言ってないのに分かってるみたいに、言い当てた。
まだお弁当作るなんて、そもそも決定してない。考えといてって言われただけだから、断ってもいいはず。
「顔に書いてあるもの。作るか作らないか、この期に及んでまだ悩んでる顔してるわ」
また友達はあたしの鼻先をちょんと触る。
「こんなにお弁当の中身、考えちゃってるのにね? 渡さないなんて。そんな勿体無いことしちゃだめよ」
考えといて、と誠司さんに言われた言葉がまるで呪いにかけられたみたいに、本当にあたしはずっと考えてしまっている。
「勿体無いって……」
断ったら残念に思うのかな、誠司さんも。
あたしも本当は……。
トントン、と友達は机の上にあるノォトと指差して叩く。つられて目を向けると、なにをお弁当になにを入れるのか、いっぱい候補が並んで、その文字たちが「作ってくれないの?」なんて悲しそうな声までしてきた。
「お弁当、作る……から」
次の日に、電停でなんとか声を絞り出すように言う。
「やりぃ! 言ってみるもんだな。楽しみにしてる」
「ちょっと、大きな声で言わないでっ」
こんな子供ぽい顔、誠司さんはするんだ。少しだけ以外だった。……異性の人にお弁当を作るなんて、そんなことまるて、恋人同士みたい。って思ったけど、お付き合いを始めたんだった。
そんなに嬉しそうな顔して、期待しないで欲しい。
ぶっつけ本番で作るのは怖いから、試しに誠司さんのために作るお弁当をそのまま、女学校に持っていく自分のお弁当にしてみた。
友達が覗き込んで「さてはこれを今度、渡すのね」って言ってくる。
「桜ちゃん、いいこと? なにも料亭のような美味しさなんて求められてないの。毎回、時間かけて作ってられないんだから。私たちに必要なのは、朝、ちゃきちゃきとご飯を作って、食べてもらうこと。着るものがほつれたらお裁縫をして、掃除もするんだから」
流石は、先生にいつも褒められている人が言う言葉は違う。友達は箸で勝手にひとつまみして、口に頬張った。
「んー。大丈夫よ。桜ちゃんのお弁当は美味しから。もし不味いって言われたら、別れてやんなさい。誠司さんの舌が馬鹿なのよ」
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