化け物と恐れられる俺、事件解決する。
吉良常狐
第1話 包帯男
「はぁ...今日も学校か」
トレーディングカードや本がきれいにコレクションされた部屋の中でそんなことをつぶやきながら目を覚ます影が一人。彼は布団から起き上がると引き出しの中から包帯を取り出し自分の左腕に巻き付けていく。別に彼が中二病でかっこいいと思ているからではない。むしろこの包帯を煩わしく思っているが日常生活を送る中で包帯をつけなくてはいけない体になってしまったのだ。
「いただきます」
包帯をつけ終わると前日に用意しておいた朝食を一人で食べ始める。彼には上に姉が一人と両親がいるが一人で生活している。高校生で一人暮らしは珍しいかもしれないが彼は両親に無理を言い許してもらった。
「ごちそうさまでした」
朝食の後片付けを終え学制服に着替え、カバンを背負い重い足取りで学校へと向かう。
「はぁ...やっぱり視線にはなれないな」
彼――如月 大地(きさらぎ だいち)は左腕に包帯を巻いているため近所の人からは奇異の目で見られる。
――まるで化け物を見るように。
そのため大地はいつも遠回りをして人目に付きづらい道を通って登校している。
普通の人にとっては高校というと青春や友情の場というイメージがあるだろう。しかし大地にとってはそうではない。
教室に入ったと同時に登下校中に浴びるような視線をもう一度浴びる。クラスメイト達はこそこそとうわさ話をする。やれ中二病だの、やれ自分でつけた傷だの。一般的に見てもそのクラスの現状はおかしいものだったが大地本人はなにも言わないため教師もどう触れていいのかわからないのだ。
「なぁ、今日転校生が来るらしいぞ」
そんなある男子生徒の会話内容が大地の耳に入る。一人でいるように見えても嫌でも音は入ってくるのでこういう会話を聞くのが大地の日課だ。
「え~?男?女?」
「女らしいぞ!」
よっしゃぁと男子たちが声を上げる中、大地は心の中で残念がっていた。
なぜなら大地の趣味はトレーディングカードゲーム、いわゆるTCGというものだ。一部の作品を除き女性人口が少ないその趣味にとって女性が来るというだけでこの日常が改善される可能性はなくなるのだ。
「それにしても如月さんのあれどうなってるのかね」
「馬鹿っ聞こえるだろ!」
クラスメイトの話し声が大地の耳に入る。彼は誰にもこの傷の内容を話していない。そのため事情が分からないクラスメイト達はどうしたらいいかわからずこそこそと話しているのだ。
じゃあ話せばいいのでは?と思うかもしれないが大地にとってこの傷は信用できる人以外には話したくない事情があった。そのためこの傷の真実を知るものは数えるほどしかいないのが現状だ。
チャイムが鳴ると担任が教室に入ってくる。担任が来るや否や皆席に座る。
「みんな知ってるかもしれないがうちのクラスに転校した来た子がいる」
担任のその言葉を合図にしていたのか、一人の少女が教室に入ってくる。
白銀の長髪にゆっくりと入ってくるその所作には育ちの良さを感じさせるものがある。外見は客観的に見てもかなりきれいな方であまり人に興味のない大地ですら目で追ってしまう。
「えっと...今井佐紀(いまい さき)といいます」
「よろしくお願いします」
「質問があるやつ~」
フィクションの漫画でしか聞かないような台詞を担任が言う。
「はい!」
「彼氏とかいますか?」
クラスのお調子者がそう質問する。
「えっと...いません」
その一言でクラス中の男子から歓声が上がる。
「じゃあ!」
別の男子が声を上げる。
「好きなタイプは?」
大地は心の中でうんざりしていた。陽キャといわれる人たちは気兼ねなく恋愛の話をするが一般的に考えてそれは恥ずかしいものである。そのためこのような空気感は大地にとってはあまり好きではない空気だった。
「えっと...」
「先生、トイレ行ってもいいですか?」
耐えきれなくなった大地は先生に許可を取り教室を後にする。
「次の授業もあるしここまでだな」
担任のそんな声が大地の耳に入る
◇
「さっきはありがとうございました」
教室に戻ると大地は声をかけられた。大地にとってそれは少し新鮮なものだった。ただそれも転校生だから話しかけてきていると結論付け返答する。
「なんのこと?」
「さっきの質問の時、私が答えづらそうにしていたから――」
「単純にトイレに行きたかっただけだよ」
「そこまで考えて生活してないっての」
ぶっきらぼうに告げ自身の席に座ると周りの女子たちが陰口を話している。本人の耳に届いては陰口になってないだろ、と心の中でツッコミながらスマートフォンを弄るとふとカードゲームの新弾の情報が流れていて目を輝かせながらその内容をかじる。
「..ねぇ、今井さん」
「なんですか?」
「あいつにはあんまりかかわらない方がいいよ」
「どうしてですか?」
「だってほら、あいつの左腕」
そう言われ佐紀は大地の左腕に包帯が巻かれていることに気づく。
「あれ、普通じゃないでしょ?」
一般的に見れば大地の左腕はかなり異質だ。そのため大地はこのようにして腫物のように扱われることに関してはあきらめているが転校生の佐紀にとってはそうではなかったようで、話しかけてきていた女子生徒に反論する。
「誰しも怪我で包帯をまくということはありますよね?」
「...はぁ」
反論している光景を見てため息を吐きスマホをしまい少し険悪な空気になっている二人のところへ歩いていく。
大地にとってこの扱いを変えることよりも転校初日で”自分のせい”で彼女が孤立することのほうが面倒くさい。
「あ~今井さん?」
「なんですか?...えっと」
「そういや名乗ってなかったね」
「俺は如月大地」
「ま、見ての通り包帯男ってとこかな」
少しおどけてみせ、別に気にしていないということを暗に伝えようと試みるが大地の努力むなしく佐紀は大地に向かってなぜ反論しないのか問い詰め始める。
「貴方、こんなこと言われてて怒らないんですか?」
「ま、事実だしね」
「あのですね!」
何かを佐紀が言いかけた時、ある男子がつぶやく
「そんなに包帯で弄られてるのが気になるならその包帯とっちまえばいいんじゃねぇか?」
そんな地獄の一言を――
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