第12話


 真壁と別れたオレが、訪れたのは公園だった。

 わざわざ言うまでもなく、いつもの公園。

 そして、公園といえば、あの子。

 

「もうっ。遅いですよ、お兄さん!」

 

「悪い悪い、用事が長引いちゃって」

 

「幼気な少女を寒空の下で放置するなんて酷いです。何かあったら、責任取ってくれるんですか?」

 

「いや、取れないね。取るつもりもないっ!」

 

「うわ……最低ですね、お兄さん」

 

 蔑むような視線を送ってくるのは、変装している国民的アイドル。

 オレの中のイメージが公園と結びつきつつある、朝音ちゃんだった。

 先日の出来事から、彼女は遠慮という概念を忘れつつある。

 少し前まで、憧れの視線を向けてくれていたのに、今ではすっかりグレてしまった。

 何かと自堕落なオレにビシバシと小言を言うようになってしまったのである。

 ファン1号時代の、何から何まで全肯定してくれる朝音ちゃんが懐かしい。

 

「お兄さんは、色々と適当すぎです。アーティストとして尊敬はしてますが……私は、人としてもっとしっかりしてほしいです」

 

 でも、手厳しくなった朝音ちゃんも、悪くない……寧ろ、ちょっといい。

 アイドルとして振る舞ってる時とのギャップがあって、とても魅力的だ。

 成人済みの大人なのに、未成年の子供に注意されて、本当に自分が情けない。

 ちゃらんぽらんな発言に対して、蔑むような目で見られると苦しい。

 苦しい……けど、嬉しいと思う。

 悔しいけど、感じちゃう自分がいるのだ。

 これが、新たに開かれた性癖の扉、なのか。

 オレの心に秘められた欲望の芽生え。

 ……ああ、文明開化の音がする。

 

「お兄さん? さっきからぼーっとしてますが、大丈夫ですか?」

 

「何も問題はない。オレは……散切り頭を叩いていただけだから」

 

「???」

 

 意味不明な発言を聞いて、疑問符を頭の上に浮かべる朝音ちゃん。

 オレは、生まれ変わったような気分だった。

 

「それで、お兄さん。私に話したい事って、なんですか?」

 

 話したい事。

 そう……オレは朝音ちゃんと話したい事があって、公園に呼んだのだ。

 連絡先を知っているのだから、文面で伝えれば良いと思うかもしれないが、それじゃあダメだ。

 まるで、風情というものがない。

 これから話すのは、オレにとって重要なこと。

 よって、無機質なメッセージを送るだけで、済ませたくなかった。

 朝音ちゃんと、しっかりと顔を突き合わせて話したかったのだ。

 

「例の如く、オレは回りくどいのは苦手だから、単刀直入に言わせてもらうぜよ」

 

「は、はい……!」

 

 口調こそふざけてるが、表情は真剣。

 これからオレが述べる言葉に込められる感情は、単純明快。

 有り金を使い果たして、朝音ちゃんのライブを見た時と、全く同じ気持ち。

 オレは、朝音ちゃんのパフォーマンスをこの目に焼き付けたい。

 彼女が全力で歌に命を吹き込む姿を、間近で見てみたいのだ。

 そして、その欲求は日を経るごとに増大しつつある。

 風船に空気を入れるように膨らみ続けて、今にも破裂しそうになっている。

 故に、オレは……風船が破裂するのを防ぐために。

 朝音ちゃんが楽しそうに歌う姿を見るために、出来ることは何でもする。

 そう、心に決めた。

 

「朝音ちゃん。オレと一緒にバンドやらない?」

 

「…………え?」

 

 だから、オレは一緒に歌う。

 活動休止した国民的アイドルが復帰するまで。

 朝音ちゃんが歌う姿を、一番近くで見るために。

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